マドリーの憂鬱

レアル・マドリーの最近の戦い振りはいささか不安定である。これをもってスター選手を集めすぎることの弊害を指摘することも出来ないことはないが、今回の趣旨はそれではない。マドリーの最近の不振の原因はひとえに守備の不安定さにあり、それはスター選手を集めたことだけが理由ではない。組織守備は僅かな変化で簡単にバランスを失う非常にデリケートな一面を持って、このような問題はスター集団のレアル・マドリー特有の問題ではない。

■無意識のバランス
昨シーズンのマドリーは、右サイドのフィーゴのカバーとフォローをマケレレが行うことが多かった。これはフィーゴを攻撃に専念させるためということもあるが、流動的なマドリーの中盤で比較的右サイドに張ることが多いフィーゴを孤立させないことにも役立っていた。

そして、左サイドのマクナマナンはラウル、グティと流動的にポジションチェンジを行っていたために空いた左サイドのカバーを左SBのR・カルロスがあらかじめ高めに位置することによって行っていた。R・カルロスが移動をスタートさせるポジションは中盤くらいからで、おなじみのオーバーラップからの攻撃参加やサイドチェンジはもちろん、高めの位置からのプレッシングや驚異的な運動量でディフェンスラインまで戻ってカバーリングまでを行うなど広い働きを担っていた。昨シーズンのマドリーの組織はこのR・カルロスの働きなしでは成り立たなかったと言っても過言ではない。

これら流動的に動く選手達のバランスを取っていた選手がボランチのエルゲラで各選手の動きをみて時には最終ラインのカバーに入るなど上手くバランスを取っていた。

ただし、この絶妙なバランスはデルボスケの性質上、選手に動き方を指示して行わせたものというより各選手の動き方をあらかじめ計算に入れて組み合わせたと考えた方が近い。そのような方法は選手の個性を生かす上では効果的だが、選手が一人でも入れ替わるととたんにバランスが崩れてしまうという一面がある。今年のマドリーの不安定な守備はこの典型といえる。

■崩れたバランス
今シーズン(といってもジダンが加入したのは昨シーズンだが)の変更点としてボランチにカンビアッソが入ったことによって両サイドのバランスが微妙に変化したことが上げられる。

右ボランチのマケレレは昨シーズンとそう変わらないが、コンビを組むカンビアッソは左利きということもあり左よりでプレーすることが多い。事実、今年のカンビアッソのプレーは昨シーズンのR・カルロスの役割に非常に似ている。要はR・カルロスとカンビアッソのプレーが被っているのである。

しかし、R・カルロスは昨シーズンと全く変わらないプレーを行おうとしているので、そのギャップがチーム全体の特に守備の歯車を微妙に狂わせている。極論すると昨年までR・カルロスが1人で行っていた仕事をカンビアッソと分担して行うことになっていて、まずそこに無駄が生じている。R・カルロス自身、高い位置で攻撃に絡む機会が減り、能力を全開できないことによってリズムに乗りきれず、パフォーマンスが低下している。

また、1人で行っていた仕事を分担して行うということは、単純に昨シーズンと比べて1人分の仕事が足りなくなるということである。今シーズン、昨シーズンはエルゲラが行っていたバランサーといえる選手がいないのだ。これによって、守備バランスの乱れは決定的になっていて、攻撃面の連携にまで影響をきたしている。

エルゲラのように他の選手の動きを見てポジションを取るバランサーはポジションが流動的なチームには不可欠で、その不在によってマドリーの代名詞である流動的なポジションチェンジが行うことが困難になった。

ただし、皮肉なことは新しく加入したカンビアッソ自身は非常にクオリティの高い選手で特にそのパス能力は見事の一言である。しかし、特にマドリーのような選手の「個」を生かすようなチームは、良い選手が加入しても単純にチーム力が上がるわけではなく、それどころか大きくバランスを崩す危険もあるのである。監督のデルボスケはこのような選手の組み合わせを考えることに非常な才能を持った監督であるが、その彼ですらこう言う事態を引き起こしてしまうのだから。
(GAITI)