- 日本代表タクティクスレポート(4)
最終回_ユース代表の戦術を解体せよ
■ユース代表の戦術を解体せよ【1】〜戦術的位置付け〜
Wユースからツーロンと繋がる一連のチームには「中盤の密度を高めて個人よりも複数人の連携で勝負する」という共通のテーマがあったように思う。日本人のもつアジリティ−(敏捷性)の高さを生かすには、縦への直線的な動きよりもウェーブに代表される曲線的な動きがより効果的で、狭いスペースでワンツーやスルーなどを交えた攻撃は日本サッカーの歴史的にも非常に得意だ。そういったことを生かすには攻撃時も選手の距離が近いほうが良い。通常こう言った要求を満たすにはディフェンスラインを押し上げて、プレーエリアを狭くするといった方法が取られることが多いが、今回の日本の場合、中盤の人数を増やし、中盤の密度を高めることによってそれを実現するという非常に珍しい方法を採用した。
そして、そこから繰り出される攻撃はサッキ時代のミランを思い起こさせる完全にシステマティックなパターン攻撃で特に西村監督時代の『第3の動き』を多用した攻撃にその傾向が強く見られた。この世代の日本選手は総じてボディシェイプなどの技術が高く、特に「体を入れてからボールを受ける」というプレーは選手全員に完璧なまでに徹底されており、一種の異様さを感じさせたほどだ。その感覚はどうやらドイツメディアも同じだったらしく、ツーロンで大活躍した日本チームを「ブラジルと並んでスペクタクル」と評価する一方、「日本の“サッカースクール”が今大会に旋風を巻き起こす」という日本選手のある種の均一性をどう評価するかについての迷いが垣間見えた。
日本はこのような高いレヴェルの基礎技術を背景にペナルティーエリア付近までボールを運び、そこからの攻撃の最終局面にパターン攻撃を用いるという非常に計算されたシニカルなサッカーを試みた。同じパターン攻撃を用いるということでサッキのコンセプトと共通点も多く見出せるが、サッキの攻撃は両サイドに素早く展開し、SB、SHの2人のコンビでサイドを突破しセンタリングを上げ、ゴール前に2人のFW、逆サイドのSH、CMFなど少なくとも3人以上の選手が飛び込むという攻撃の流れ全てが完璧にオーガナイズされた一種のパターン攻撃となっているのに対し、日本は攻撃の最終局面に例えば第3の動きからの飛び出しというような成功すればフリーで1対1と成り得るようなパターン攻撃を用いた。
前者のサッキの方法は、「センタリングに飛び込む」という狙いの形を作ること自体の難易度は高くなく、問題はそこから決められるかにかかっている。ファンバステンなど強力なFWを擁したミランなどでは非常に有効な戦術だろう。対して、日本は「第3の動きからの抜け出し」といった形は、そういったシーンを作る確率自体は低いが、いざ作ってしまえばそこから得点を奪うことは容易だ。強力なFWがいなくても、フリーの1対1を決める能力さえあれば十分ということで日本には合った選択だろう。
サッキのように戦術が徹底されているチームはサッカーの内容はつまらないといった誤解を受けることがあるが、サッキのミランは近年イタリアにおいて稀に見るスペクタクルチームで、それはサッキの後を継いだカペッロが全勝優勝というとてつもない偉業を成し遂げたにもかかわらず、「カペッロのサッカーは勝つだけでつまらない、サッキの方が良かった」といったファンの声からも窺えるだろう。実際、日本のサッカーもWユースのチェコ戦やツーロンなど機能した際は、非常に美しい攻撃を見せた。
しかし、このサッキのスタイルと日本のスタイルには決定的な違いがある。
それは、『戦術の難易度』の違いだ。
■ユース代表の戦術を解体せよ【2】〜戦術の難易度についての考察〜
「普通はプレスに行くと言っても1人対1人なんですよ。だけど、ジュビロの場合は1人に対して2人行く。他の選手のマークを外して、行くのでリスクはあるのだけれど・・・(中略)このやり方はとても難しいんです。2001年シーズン前にそれを決めましたが、服部など何人かの選手は『それは難しい』と言いにきました。(中略)しかし、私は『それではレアル・マドリードとやったら1対1でやられてしまう』と思ったからそういった。選手はそれで納得し、この難しいやり方に取り組んだ。」
〜引用元『季刊サッカー批評vol.18 ジュビロ磐田はなぜ、強くなったのか』〜
上記の発言は、同年に控える世界クラブ選手権に向けてのチーム作りに関する鈴木政一元監督の発言である。つまり、ジュビロは世界と戦うことを想定して難易度の高い(当然効果も大きい)戦術を採用したということだが、この『戦術の難易度』について考察していきたいと思う。
上記のジュビロの目指した1人に対して2人マークに行くような常に数的優位を作る戦術は担当ゾーンや選手の役割が複雑化し、戦術的難易度の高さは最高峰と言っても差し支えない。これは1対1の弱さを補うために考えられた戦術であるが、数的優位を作ることを基本としているので中盤に人数をかけることが必要になり、マークの受け渡しが複雑化する。また、数的優位を作るためにピッチ全体にバランスよくではなく、ある場所に集中して人数をかけているので、意図的にバランスを崩しているとも言える。ジュビロは、チーム全体が連動してプレスをかけることによって、攻撃側のボール回しを意図した方向に誘導することによってそれを可能としているが、これは優れた完成度が要求され、かつ選手のコンディションにも左右される極めて高度な戦術である。その分機能したときの効果はすばらしいものがあり、常に数的有利が作れるようだと対人能力の差はかなりの割合で相殺できることになる。
中盤で数的優位を作る戦術は、ジュビロだけでなく日本ではしばしば見ることが出来る。これは今回の西村監督のユース代表から山本監督の五輪代表と繋がるチームにも共通して言えるコンセプトで、1対1に弱いといわれるウイークポイントを上手くカバーできるが、その分機能させることが難しく、機能しなかったときのチーム力は低下は甚大で、相手のレヴェルにもよるが、強豪チーム相手に機能しないようなことになれば悲惨という他ない結果が待っている。実際、このような戦術はリスクが高すぎて世界でもあまり見られず、ジュビロも国内リーグをターゲットにした02シーズンは運動量の増加から採用を見送っている。
何もこんな面倒なことは止めて、素直に対人能力を向上させてシンプルなサッカーをした方がよいのではという声が聞こえてきそうだが、身長やリーチの長さ、身体能力など身体的特徴もあるので、日本が本当に世界のトップレヴェルと戦うのであればリスクはあるが、難易度の高い戦術を選択することは魅力的なアプローチの1つではあると思う。
■ユース代表の戦術を解体せよ【3】〜各ユニットの役割〜
ここまでの話の流れをまとめると、
ユース代表の戦術が狭いエリアでのコンビネーションプレイを生かすために「中盤の密度を高める」事を目的とし、そのプロセスは従来の「ディフェンスラインを押し上げて、スモールフィールドを作る」のではなく、「中盤に極端に人数をかける」ことによって実現しようとしている。そして、この試みは局面で数的優位を造ることが出来るが、中盤に極端に人数をかけているためにバランスが悪く、機能させるための「難易度が高い戦術」ということになる。
さて、ここからは具体的にこのチームの各ユニットに焦点を当てて、戦術分析を行っていこうと思う。
『1トップ2シャドー』
西村監督のときから現在まで受け継がれてきた前線の形だが、現在は初期コンセプトから遊離して、ただ形だけ受け継がれている印象はぬぐえない。西村監督時代あれほど明確なコンセプトのもとに行われたポストプレーからのダイレクトパスによる突破の頻度が激減し、攻撃はトップの中山に放り込むというような場当たり的な形に終始してしまっている。
これは厳密に言えばトップの選手だけの問題ではないが、2シャドーが前にかかりすぎてボールの引出しを怠っていることもその一因となっている。西村監督の立てたコンセプトではシャドーの選手はあくまでもMFとして機能しなくてはならず、そのことを意識して、敢えて3トップといわず『1トップ2シャドー』という特殊な名称を用いたのではないだろうか。確かに、シャドーの選手の飛び出しは必要だが、全く同じ割合でプレッシングの参加やカバーリング、ボールの引き出しなど中盤としての仕事も重要である。例えば、2シャドーを大久保と田中という組み合わせにしてしまうことは自殺行為に他ならない。
西村監督は、2シャドーをMFとして機能させることによって、捨てていた部分が実はある。
それは「前線からの相手DFへのプレッシング」だ。
意外と見過ごされがちだが、FWの相手DFへのチェックは非常に重要でこれが有効に機能すればディフェンスラインの押し上げも非常に楽になる。ACミラン黄金期のFWでかつて清水エスパルスにも所属したことのあるマッサーロはこの前線からのプレッシングによって、相手のパスコースを限定するプレーに定評があり、それがミランのフラット4を成り立たせた一因でもあった。
しかし、これは2トップだからこそ機能する部分であり、1トップで相手DFに有効なプレッシャーをかけることはさすがに難しい。事実、西村監督のチームのディフェンスラインの高さがそれほど高くなかったこともこのことと無関係ではないだろう。ただし、前線からのプレッシャーは西村監督は敢えて捨てていた部分なのではないだろうか?
前線からプレスをかけることによってディフェンスラインを押し上げられるというメリットはあるが、中盤に人数をかけることによって数的優位を実現する日本にはすでにメリットは少ない。
これを踏まえて現状を分析すると、シャドーが前に意識が言っているので(放り込みが中心だからそれも仕方ないとも言えるが)肝心の中盤が薄くなっていて、かといって3トップ気味になっているにもかかわらず、前線からのプレスはゆるく、ディフェンスラインの押し上げは行えない状態になっている。
「形だけにとらわれて、本来の機能を見失っている」
現状の『1トップ2シャドー』を分析するとこういう状態ではないだろうか。
『サイドハーフ』
西村監督:右「石川」 左「駒野」
小野監督:右「石川」 左「駒野」
山本監督:右「田中(隼)」左「根本」
これらの選手を敢えてカテゴライズすると、全選手が上下動の動きを得意とする典型的なアウトサイドと分類できる。サイドプレイヤーは前にも書いたが、どうしても中盤でのプレーの意識が希薄になる。チームが最も上手く回ったツーロンではアウトサイドは、同じ“縦系”ながら、実質2バック気味で中盤インサイドに3人配置され、中盤の数的優位の助けになったことは見逃せない。
トルシエが中村や明神をアウトサイドに使ったように中盤を厚くするのならば、アウトサイドにインサイドの選手を流用する手は非常に利にかなっている。典型的なサイドプレイヤーを使ってしまうと、どうしても役割分担されてしまい、インサイドとアウトサイドの連携が薄くなってしまう。フィーゴのように素晴らしいサイドプレイヤーがいればそれでも良いが、卓越したサイドプレイヤーがいない(新居場は可能性を感じさせるが・・・)日本は出来ればインサイドとの連携で崩したいところだ。インサイドと上手く連携を取ることが出来れば、アジア大会で中村と名波が見せたような効果的なポジションチェンジも流れの中でスムーズに行うことが出来る。
また、守備についてもインサイドと連携してプレッシングをしかけられれば、非常に効果的で、“パスの受け手”よりも“パスの出し手”のところで潰す方が勝負しやすい。ちなみに、フィーゴによればレアル・マドリーは守備時での対応の流れでポジションチェンジを行うそうだ。
中村は前者、明神は後者の役割をそれぞれ期待されたのだが、中村を起用できたことは高いラインの恩恵も大きく、現状の戦術では明神のようなボランチタイプのアウトサイド起用が薄くなった中盤を厚くするためにも有効になってくるだろう。
明神のアウトサイド起用はトルシエの非常に有用な遺産なので是非試して欲しい。
『ボランチ&ディフェンスライン』
これらについては、コレとコレを参照下さい。
コレ以上書いたらさすがにくどくなりますから(笑)
(GAITI)
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