- 論理に支配されるフットボール
- 日本1−1韓国(日本ラウンド)
韓国2−1日本(韓国ラウンド)
アジアの盟主を争う日韓五輪代表の親善試合は以上のような結果で幕を閉じた。
数字だけを見れば接戦だが、内容はホームアウェイ共に韓国に圧倒されたといって差し支えないだろう。韓国のレヴェルアップ(特にディフェンスのそれは顕著だった)には正直驚かされたが、ゲーム内容ほどに両国の実力に差があったのだろうか?ゴールデンエイジの韓国との真剣勝負を終えた今、もう一度日本五輪代表の現状を分析してみたい。
■あまりにも機械的な山本采配
「ファンハールは極めて優秀なメカニックである。有名なファンハールノートを引き合いに出すまでもなく、真摯にフットボールを勉強し、理論を組み上げ、情熱を持って事に当たってきた。(中略)だた、彼の真価が表れたのは、むしろバルセロナの監督に就任した97年以降だったと思う。真価というよりは今まで表に出ていなかった資質と行った方が適当だろう。アヤックス時代はどんな相手にも3−4−3システムを基調としたアヤックススタイルを押し通していたが、バルセロナでは相手によって、戦況によってフォーメーションを変え、選手を変える柔軟性を示したのだ。」
――西部謙司著『スローフット』39〜40pより
メカニックとは確かに言い得て妙である。
「現代のフットボールのスターは個人ではなくチームである」と言いきってしまうファンハールは、選手個人をチームを構成する1つの”駒”として扱う。こう書くとマイナスイメージが先行してしまいそうだが、ファンハールやエクトル・クーペルのような優秀なメカニックはチームが成り立つためにどのような駒が必要で、かつどのような選手にその駒としての適性があるかを見ぬくことが非常に上手い。また、完全にチームを手のうちに入れているのでチームを成り立たせる必要最低限のシンプルな約束事を的確に把握している。この能力は駒さえそろえばという条件付だが、非常に短時間で組織的なチームを構成でき、その監督の引き出し次第だが駒を自在に変えることにより戦術を一新してしまうことすら可能とする。
しかし、このタイプの監督には共通の弱点がある。選手が監督にある程度従順でなければ戦術が破綻してしまう点だ。
選手個人には経験に裏打ちされた感覚がある。
例えば、押し込まれたチームのボランチがディフェンスラインに吸収されるシーンがあったとしよう。
「何となく危ない予感がするからディフェンスラインに入ろう」
そのときのボランチの思考はおそらくこのようなものだろう。
一見、弱気に見えるこのようなプレーも大局的に見れば論理的であることが多い。優れた選手であればあるほど、ピッチの流れを読む感覚は正確なものだ。このような場面もプレスが空回りしているので、前線から追い回すよりもディフェンスラインに入り視界を確保し、タイミングを見計らってアタッキングする方が効率が良い守備が出来るという選択だろう。優れた選手は理論ではなく感覚的に、より確率の高いプレーを選択することが出来るのだ。
大抵の監督は選手のこのような固有の感覚は出来るだけ犯さないものだが、チーム全体を機械的にオーガナイズするメカニックタイプの監督にとっては選手のこのような感覚はチームの歯車を乱すものでしかない。トルシエのフラット3の例を持ち出して言えば、裏を抜かれることを恐れてディフェンダーが下がってしまうプレーなどにこれは表れる。
また、選手を駒として捕らえていることにより選手同士の微妙なコンビネーションを軽視してしまうことも弱点の1つだろう。昨年のバルセロナでのファンハールにしても、日本代表のトルシエにしても選手をコロコロ変えすぎてコアとなるユニットの熟成が甘くなった部分もあった。
さて、前置きが長くなったが、そろそろ本題に入りたい。
山本監督はメカニックタイプの監督である。
インタビューでの発言や試合中の采配を見ていればそれは非常に良く表れている。
今回の韓国ラウンド、日本は3バックを総入れ替えしてきた。あれほどこだわっていたリベロの青木を下げて、代わりに那須。Jリーグで非常に安定したプレーを見せている茂庭の抜擢は理解できるとしても、右CBに徳永が入ったことはどう考えても唐突だった。ここまで書けばもうお分かりかもしれないが、山本監督は明らかにビハインドになった場面または、ゲームがもつれた場合のシステム変更、もっといえばチームのベースフォーメーションである3−4−2−1から4−2−3−1へのシステム変更を視野に入れてチームを編成してきた。結果、日本は試合序盤にセットプレーから訳の分からないうちに先制され、そして、訳の分からないうちに(山本監督にはあくまでの当初の予定通り)システムを変更してきた。
今回の4−2−3−1への変更は、現チームの中心である大久保、松井と復帰してきた山瀬を同時に起用するために思考錯誤した結果だろう。もしかしたら、試合開始からこの形で行くことも視野に入れていたのかもしれない。突然の変更だったが、阿部が前、森崎和が後ろとダブルボランチで役割分担され、両SBが上がったとき森崎和がディフェンスラインに入りきっちりカバーしていた。しかし、初戦は付け焼刃、チーム全体は全く機能しなかった。それが、急なシステム変更でリズムを崩したせいなのか、あのままのシステムで行っても同じだったのかは神のみぞ知るところだ。しかし、結果論ではなく、独特のアウェイという環境でのいきなりの失点で動揺する選手達を尻目にビハインドになったからと行ってすぐに機械的にシステムを変えることはベターな選択とは言えないことは確かだろう。変えるにしても変えないにしても、選手がある程度落ち着くまでもう少し様子を見てから行わなければ、今回のように何が原因で機能しなかったのかがわかりにくくなってしまう。
試合の流れや選手の心理面を軽視してしまうことはメカニックタイプの監督にしばしば見ることが出来る。しかし、このような弱点はメカニックタイプの監督を選んだならば許容しなければならない部分かもしれない。
むしろ、一番の問題は「山本監督はメカニックとして優秀なのか、否か」ということだろう。
私の結論は、「山本監督は今のところ決して優秀なメカニックとはいえない」というものである。
山本監督は、メカニックタイプの監督として致命的にかけている部分がある。それは、選手の能力及びタイプの把握と各戦術における必要な選手の役割の把握である。
この能力はメカニックタイプの監督の能力を決める最大限の要素なので、これが欠けていることは致命的である。誤解のないように言うと、山本監督のこのような能力は一般的な監督と比べると決して低くない、だがメカニックとして見てどうなのかということだ。
代表的な例を挙げよう。
まずは、大久保の1トップ起用である。今回の日韓戦、ホームアウェイとも大久保の1トップでスタートしたが、いずれも全く機能せずに後半から中山や高松を入れ2トップに変更してきている。全く同じことを繰り返すことも確かに問題だが、もっと問題なのは、大久保の1トップ時のあまりにも酷いチームの出来である。
私も、1トップ時には必ずトップにポストプレヤーを置かなければならないとは思わない。大久保のような裏を狙うタイプでも周りとの役割分担を巧みに行えば十分に機能させることは可能だと思う。昨年のエンポリが良い例だろう。だたし、これは相当に決め事を作らないと機能しないタイトロープのような戦術だ。山本監督は、ファークロスの落としからのパターンやボランチからの組み立てのパターンなどは練習していたようだが、このようなどのようなフォーメーションでも成り立つような応用範囲の広い、使い所が難しいものではなく、そのフォーメーションでしか使えないようなより具体的な決め事が必要なのだ。
例えば、韓国は3バックでサイドにスペースがあるので、トップの大久保をボールサイドに開かせ、比較的難易度の低い同サイドからのパスで大久保のキープ力を生かしボールキープさせる。大久保への縦パスに連動してサイドプレイヤーがオーバーラップし、クロスボールを上げる。そこに、2列目からの飛び出しが得意な松井や山瀬、石川が自動的にゴール前に入ってくる。ジュビロも良く攻撃の組み立てに使うこの同サイドへのフィードパスは難易度の低いプレーで、その後の形さえきちんと出来ていれば、こういったパターンは試合中に容易に何度も作ることが出来る。相手の特性や各選手、各フォーメーションの適性を考慮したより具体的なパターンを持たなければ「動く1トップ」のような難易度の高い戦術は成り立たない。山本監督が大久保の1トップを敢えてもう一度試したことはテストの意味合いもあるのかもしれないが、その解答はメカニックとして致命的なほど選手の特性やフォーメーションの特性を考慮に入れていないものだった。大久保の1トップにしたことそれ自体よりも、それをあそこまで見事に機能させられなかったことが問題なのだ。
また、これだけでなく青木のリベロ起用にもこれは表れている。青木のリベロ起用はディフェンスラインからのビルドアップやロングフィード、攻め上がりを期待してのことだと思われるが、ディフェンスに引っ張られてそのような役割はほとんどこなせなかった。実際、ビルドアップやフィードはほとんどボランチの阿部が行い、オーバーラップは1試合で1,2回くらいしか見られないという状況で、本来ディフェンダーではなく、対人の対応に明らかな不安を見せる青木を起用し続けたことは疑問と言わざるを得ない。阿部と青木のポジションチェンジを盛んに行わせている様は手段と目的が入れ替わったとしか言えない滑稽なものだった。
■今後に向けての課題
山本監督は、サッカーマガジンNO.940のインタビューで今後の課題として以下のように答えている。
「コンセプトを増やしてきて、今は「個人の判断」というのを大事にしている。」
「個々の判断を鍛えることは確かに難しい。だからこそある程度のベースが出来た今、
判断を鍛えるためにできるだけ強い相手とやりたい。」
「チームの50%のフィードバックは終わっている。後の50%は選手がやりこんでいく部分。だから強い相手とやりたい。」
要するに、チームのベースは出来たので後は強い相手と戦い、個人の経験や判断を磨いていけば良い。さらに言えば、その強い相手と戦うことによって選手達が鍛えられ確実にチーム力が上がるので、短期的な負けはそれほど気にする必要はないと言うことだろう。
しかし、これは決定的に間違っている。
確かに、今まで重ねてきたベースである、トップに中山のようなポストプレイヤーを入れる3−4−2−1や3−5−2で戦いつづければ、ある程度の経験は得られるだろう。だが、今回の韓国戦のようにベースを崩し、自分たちの能力をほとんど発揮できないゲームで得られる経験値は限りなくゼロに近い。11月に行われるWユースもあり、山本監督はこれからも色々な選手やフォーメーションをテストし続けるだろう。そのためにいちいちチームが機能不全を起こしてしまえば本来得られるはずの経験まで得られなくなってしまう。
そもそも、ベースの形ですらかろうじてサイド攻撃の形があるという状況なのだ。ホームでの韓国戦のようにサイドのスペースを消されてしまえばあっという間に手詰まりになってしまう。攻撃だけでなくラインの設定を低く抑えた守備も高さや1対1の対応に弱点をさらしている。今のような戦術で行くなら対人能力の高い選手を並べない限りチームが破綻してしまうだろう。このように監督が手をつけなければならない要素はまだまだある。後は経験のみと言えるのはこれらの弱点を改善した後だろう。
私が考える今後の改善点を上げると以下のようになる。
1.動きの連動性
2.パスワークを生かした、中央突破の崩しのオプション。
3.ディフェンス方法と選手タイプの不一致の改善
1つ目の動きの連動性については、これは不明瞭な役割分担の影響である。
山本監督は今回の韓国戦の大久保、松井、山瀬のトライアングルは状況により、だれが三角形のトップになってもよい、といい役割分担を曖昧にしていたようだが、このような曖昧な役割分担が選手を逆に動けなくしている。役割分担と言うと、昔の印象もあり選手のユーティリティー性を損ねてしまう印象があるが、あくまでも基本的な役割は与えておかなければ、プレーの優先順位がつけにくくなり選手の判断を遅らすことに繋がる。また、各選手の役割が明確なら選手同士の共通理解を生む助けになってくれる。この場合、上述したような大久保がサイドに流れる、または中盤まで引いてくると言う役割を与えることによって、自動的に2列目がそのオープンスペースに飛び込むと言ったような共通理解が生まれ、選手の判断を円滑にすることに繋がる。
2つ目の中央の崩しについて。
これは山瀬のプレーにヒントが隠されている。アウェイの韓国戦の前半に根本と山瀬がクロッシングし、山瀬が中へ切れこんだシーンがあった。今までならば、ここで左の根本にパスしてクロスと言う展開だろうが、山瀬はここでタイミングを外して松井に楔のボールを入れ、そのリターンからゴール前に飛び込んだ。結果は残念ながら、タイミングが合わずシュートまでは行けなかったが、あれほど強固だった韓国のディフェンスをあっさりと突破したことは確かだ。個々で重要なことは、楔のボールを入れるタイミングとその精度である。山瀬はここで、左サイドの根本の存在を囮に使いタイミングを外し、マークを背負っているポストのマークから遠い方の足に正確に楔を入れている。ここに第三の動きが加わるとディフェンスとしてはどうしようもない。1つ目の動きの連動性と合わせると強力な中央突破のオプションとなるだろう。中央突破のオプションが加わるとサイド攻撃をより効果的に行うことが出来る。また、楔のボールが正確に入ると、ゴール前でのファールも増え、阿部勇樹という強力なFKを抱える日本には得点の機会が倍増することに繋がる。
3つ目のディフェンンス方法と選手タイプの不一致について。
現状のディフェンス陣は、青木や三田に代表されるようにフィードなどを得意とする比較的ソフトなタイプが選ばれている。にもかかわらず、ディフェンス方法は、ラインを上げずディフェンダーの対人能力にかなり頼る方法を採用している。今のようなタイプのディフェンダーを採用するならば、ラインの押上を積極的に行う方法にするべきだろう。また、方法を変えないのであれば、もっと対人能力の高い選手を起用するべきだ。
(個人的な意見を言えば、永田や角田は対人能力はもちろんラインコントロールでも現状のディフェンス陣の上をいっていると思うが・・・、ただし、今回の韓国戦の茂庭は良かった)
厳しい意見が多くなってしまったが、逆に言えばこのような点が改善出来れば、このチームにはまだまだ世界と互角に戦える可能性があると考えている。期待を込めて今後を見守りたい。
(GAITI)