- 山本JAPANの二律背反する2つの顔
- 五輪最終予選を翌月に控えた最後のテストマッチシリーズ。今まで不透明だった山本監督のチームコンセプトが適切なピースをはめ込むことにより、やっとピッチに現れ始めた。平山、今野などのWユース組やトゥーリオなどの新戦力が結果的に山本の目指すスタイルにはまった形だ。以下、五輪代表の現状と最終予選の展望を直前に行われたテストマッチを通して探っていきたい。
■生まれ変わった山本JAPAN
U−23イラン代表戦。日本は、Wユース組の今野や新戦力のトゥーリオなど新しい顔ぶれが並べてきた。「15秒のカウンター」に代表されるとおり、山本監督のコンセプトは、トルシエ時代の流れをくむ組織的なプレッシングサッカーという形で一貫してきたと考えて間違いない。しかし、昨年までの五輪代表は一貫してきたコンセプトとは対照的にチームの中心選手すら平気で代えてしまう一貫性のない選手起用や目標とする戦術に合致しない選手選考などの影響からチームのパフォーマンスが安定しなかった。特にDFラインに「高さ」がなかったとことが致命的だった。昨年の韓国戦のように単純なロングボールすら跳ね返すことが出来ず、ずるずるラインを下げてしまいチーム全体を機能不全におとしめる原因となってしまっていたのだ。
水戸で10ゴールを上げた攻撃的DFトゥーリオの起用は、03シーズンの日本五輪代表の安定しないパフォーマンスの根本原因であるDFラインの「高さ」を結果的に補完することになった。また、彼だけでなく昨シーズン横浜Fマリノスで急成長した那須も空中戦に強さを持っている。彼らを中心とした新DFラインが今回のテストマッチシリーズのハイパフォーマンスに大きく貢献したことは間違いない。
カウンターを得意とする中東の雄、イランを相手にも関わらずトゥーリオは持ち前の攻撃的性格からアグレッシブなラインコントロールを見せ、それによって実現したスモールフィールドで日本は前線から強烈なプレッシングをかけてきた。守備のリズムをつかんだ日本は、イランの攻撃を効果的に遅らせ、各エリアで数的有利を作ることに成功。イラン戦の前半は特にその傾向が顕著に表れた。新たにボランチに起用された今野のボール奪取から2度のチャンスを作り、そのうち1度はこの試合唯一の得点を生み出したのだ。この2度のチャンスはいずれも「今野がボールを奪い、山瀬が素早くスルーパスを送り、田中達が抜け出す」という共通の形だったことは興味深い。特に平山が決めた得点シーンは“This is modern football”という美しい形だった。
まさに、「15秒のカウンター」を体現した日本五輪代表だが、次の発言からもわかるとおり山本監督は堅い守備を貴重としたプレッシングサッカー“のみ”を目指していたわけではない。彼が、おいては日本技術委員会が目指したスタイルは、あくまでも「トルシエの先」である。
■トルシエ後の日本サッカー
「結成当初はアジア大会を目指して、時間が1週間しかない中で高い位置でボールを奪うということを……今日もいい時間、プレスが掛かっている時間帯で高い位置でボールを奪ってという、イラン戦でのゴールもそうだったんですけれど、それを狙いのひとつにしています。ただ、それだけでは90分間もちませんので、ボールを奪ってからのポゼッションのトレーニングをかなり積んで、今日のゲームも五分五分のポゼッションだったと思うのですが、そのポゼッションというのはボールをキープすることではなくて、ボールを動かしながら、どんどん人もスペースもボールも前に動いて、そういうスペースを作り出していく、ポゼッションしながらダイレクトプレーのイメージを常に持っているということをチームのコンセプトとしてやっています。」
Sports Navi「2.10 国際親善試合U-23日本対ロシア代表後 山本監督会見」より
ダイレクトプレーだけでなく、ポゼッション状態でどのようなサッカーをするのか?
個人的にも、これは「ポストモダンサッカー」のメインテーマだと考えている。このテーマは山本監督だけでなく、日本技術委員会においても共通の目標で、それは西村監督から小野監督、山本監督というチーム変遷を追っていけば、おのずと見えてくる。(拙文ですが、日本代表タクティクスレポートにその変遷を書いています。お時間があれば参照してくれるとうれしいです)
山本監督が就任して以来、最高の試合と形容されるアジア最終予選の壮行試合の韓国戦。その後半に見せたサッカーは、山本監督のこの理想に最も近づいた瞬間といえるだろう。松井を中心に田中達、石川がアグレッシブに前へ前へと進み、それに引っ張られる形でボランチの鈴木、CBの那須、徳永までもがドンドン前の選手を追い越す形で駆け上がった。ボールを動かしながら、人も動きスペースを作る。そして、出来たスペースに次から次へと飛び込んでくる。スモールフィールドでのシュートカウンターと共に今まで目指してきた形がついに具現化したのだ。しかし、試合終盤に何度も韓国の選手に抜け出されたように、守備については決して安定しているとはいえなかった。
対して、韓国戦の前半は攻撃の形はなかなか作れなかったが、組織的な守備に関してはイラン戦の前半と同等か、またはそれ以上の出来だった。今までの対戦では、ただ押し込まれるだけだった韓国を逆に完全に押し込んでしまったことにそれは現れている。
攻撃の形は出来なかったが、守備は抜群の安定度を誇った前半。
素晴らしい攻撃の形を見せたが、守備に一抹の不安が残る後半。
今回の韓国戦は山本JAPANの2つの顔が見られた試合でもあったのだ。
今後、山本監督は目指すコンセプトを実現させるために、
この二律背反する2つのチームの間にどうのようなバランスを見いだすのかが注目される。
■五輪アジア最終予選展望
「最初の20分間の入り方ですが、これはトレーニングの成果だと思います。組織的なプレーもそうですが、全体的に体の方もパワーアップしてきて、コンディションも良いことですね。特に前半から彼ら(韓国)のパワーに負けないだけの、激しい入り方というものができていれば、後半のスタミナという点ではわれわれの方がスキルも含めて生きてくるのではないかと。お互いが消耗していく中で、われわれの技術が終盤生きてくれば、という狙いも含めて、最初から飛ばしていかないと駄目なんだということは言い聞かせていましたし、実際に1試合(スタミナが)もつんだ、ということも選手たちも実感してきていますし、それは今後もさらに磨いていきたいと思います。」
Sports Navi「2.21 キリンチャレンジカップ2004 U-23韓国戦後 山本監督会見」より
これは要するに、
「スタミナについては絶対の自信があるので、前半は守備的に戦い、
後半相手がバテテきたところを見計らって、技術のある選手を入れて攻勢をかける」というゲームプランだ。
この韓国戦終了後の山本監督のコメントは、これからアジア最終予選を戦うゲームプランを推測するのに非常に興味深い。
最終予選の相手であるバーレーン、レバノン、UAEいずれにとっても日本は格上の相手だ。中東勢は元々引いてカウンターが得意と言うこともあり、おそらく、引いてくる相手をいかに崩すかが焦点になってくるだろう。山本監督にとっては絶対に負けられないこの戦い。今回の韓国戦と同様のゲームプランを立ててくることは十分考えられる。つまりは、前半は「プレッシングからのシュートカウンタースタイル」で、後半からは「ボールと人を積極的に動かすポゼッションスタイル」で戦うと言うことだ。
メンバーは、そのまま韓国戦と同様。トップ下、右サイドにそれぞれ山瀬、徳永を入れ、右CBに茂庭がスターティングメンバー。そして、後半勝負所で、松井、石川を投入し勝負を賭ける形だ。慎重にならざるを得ない最終予選。このようなことを見越して韓国戦を戦ったのかもしれない。または、そうでなくても韓国戦のゲームプランの“結果的”な成功で同様のプランを立ててくるかもしれない。
しかし、山本監督は同じく韓国戦後の会見でこのように語っている。
「特に立ち上がりの20分で点を取るというのは、爆発的な攻撃力が必要になると思います。なかなか難しいことだとは思いますが、そこを目指していきたいと思います。」
Sports Navi「2.21 キリンチャレンジカップ2004 U-23韓国戦後 山本監督会見」より
私はこちらの山本JAPANに期待したい。
格上の相手と戦う場合は守備が拠り所になるが、反対に格下相手と戦う場合は攻撃が拠り所になる。2000年アジア大会。日本は何度も相手に先制されたが、選手は全く慌てなかったそうだ。なぜなら、当時の日本代表には相手がいくら引いて守ろうと、いつでも点を取れるだけの攻撃のオプションがあったからだ。今回の五輪代表もそれだけのポテンシャルは十分秘めている。韓国戦後半のようなサッカーで、不甲斐ないA代表に代わって、アジアに日本の脅威を植え付けてくれることを期待してやまない。
(GAITI)