UAEラウンド総括 featuring HIRAYAMA

中東という独特の環境、中1日という過酷な日程――悪条件が重なったアテネ五輪アジア最終予選UAEラウンドを日本は2勝1分と見事首位で折り返すことに成功した。これらの悪条件を乗り越えて結果を残してくれた選手、スタッフ達をまずは祝福してあげたい。しかし、予選はまだ折り返し地点を迎えたばかり。そこで、これから始まる日本ラウンドを控えて、まずはUAEラウンドを振り返ってみる。

■「引いた相手に対しての打開策」について一般論
3試合6得点0失点――。日本五輪代表のUAEラウンドの成績である。これだけ見ると安定したパフォーマンスを発揮したように見えるが、実際は攻守に多くの課題が見られた。今回は特に攻撃面について検討していきたい。

日本はUAEの地で6回ゴールネットを揺すったが、その内容は、次の4つのパターンに分類できる。

@ ハイボールを平山が競り勝って、田中達也が抜け出す (田中達也、鈴木)
A セカンドボールを拾って、ミドルシュート (石川、田中達也)
B アーリークロス (高松)
C スローインからのパス交換から「第3の動き」での抜け出し (高松)
(※カッコ内は得点者)

引いた相手を崩すには、「高さ」や「ミドルシュート」が有効な武器になることはサッカーの定石の1つだ。今回の戦いでもそれは証明されたと言えるだろう。しかし、これら“単発”で試合を決めるためには、よほど卓越した「個」の強さが求められる。実際、平山の「高さ」はレバノン戦では試合を決める決め手となったが、UAE戦ではそうはならなかった。そうなったときに重要なのは、武器を駆け引きとして如何に使うかである。例えば、「ミドルシュートでDFを前に引っ張って、裏のスペースを作り出す」と言ったことがその一例だが、残念ながら今回の戦いでは、日本の攻撃にそこまでの工夫は見られなかった。

相手の守備の弱さや試合展開の“盲点”に助けられた形での得点が目立った日本だが、唯一山本監督の狙っていた形での得点があった。Cの形の「第3の動き」からの得点である。しかし、山本JAPANにとって、このパターンは“諸刃の刃”でもあるのだ。

■ 平山相太は“囮”に過ぎないのか、それとも・・・
私が平山相太を世界に通用するプレーヤーだと初めて認識した試合は、1−5と完敗したWユースのブラジル戦である。この試合の平山のポストプレー。特にグラウンダーのそれは本当に素晴らしかった。相手のタイミングとベクトルを見事に外し、ダイレクトで美しい“落とし”を何度も見せてくれたものだ。しかし、この中東3連戦において彼のポストプレーは全く冴えなかった。得意のはずのグラウンダーのポストは味方とのタイミングが合わず、何度も攻撃の機会を潰し、それが平山はもちろんチーム全体の攻撃のリズムを損なう原因となってしまったのだ。

では、どうしてWユースでは素晴らしかった平山のポストプレーが、このチームでは機能しなかったのだろうか?

この疑問を解く鍵は、山本監督の「人とボールを流動的に動かす」というチームコンセプトに隠されている。日本のポゼッション時、ボランチの鈴木やCBの那須や徳永が積極的にオーバーラップを仕掛けてくるシーンがよく見られたが、こういった意識はオーバーラップに限らずポストプレーの際にも見ることが出来た。平山に楔のボールが入ったとき、2列目の松井や山瀬は平山を追い越してボールを受けようとしてしまうのだ。いわゆる「第3の動き」である。

複数人のスペースを作る動きに連動したスペースへの飛び込み――「第3の動き」は高度な連携を必要とする難易度の高いプレーであるが、同時に必殺のプレーでもある。先ほど挙げたUAE戦のゴールは、それが唯一発動したシーンだ。あれほど強固だったUAEの守備を一瞬にして破ってしまったことからもその威力は推して知るべしであろう。「第3の動き」を利用しての中央突破は山本監督の意図した攻撃の形の一つだと言うことに間違いない。

しかし、あまりにこの形にこだわってしまうと平山の良さが消えてしまうことも、また確かだ。
つまり、これではポストに入った平山は“囮”としてしか働かないのだ。

■ 国見スタイルがもたらした弊害
強力なストライカーでもある平山のポストプレーは、自分がボールを受けた後、再びゴール前にポジションを取ることを想定したプレーだ。楔のボールをフォローに入った2列目に落として、サイドへ展開。そこからのクロスボールをゴール前で待ちかまえる、といったプレーイメージが平山の頭の中で無意識に描かれているのだ。そして、同時にこれこそが平山が最も生きる形である。

平山が高校時代3年間所属していた国見は、縦に早い攻撃が特徴。特に平山在籍時は、シンプルにサイドに展開し、クロスボールを平山に合わせるというスタイルが確立されていた。つまりは、「平山のチーム」だったのである。ゴール前で如何に平山に多くのボールを供給するかが国見の攻撃のコンセプトなのだ。

平山がクロスボールに対して、ファーサイドに構えることが多いことも同じ理由といえる。
“点”で合わせるニアクロスに比べて、“線”で合わせるファークロスはそれほど精度の高いボールは要求されない。平山はこういったクロスに対して、DFに“かぶる”動きでの胸トラップやDFに覆い被さってヘティングに持っていくパターンをよく見せたが、こういったプレーが高確率で成功したことは、やはり相手との力量差のためだろう。 一流のDFを相手にした場合、こういったファークロス一辺倒では平山といえども通用しない。そうなったときに必要となってくるのが、周りの選手とのコンビネーションであり、“囮”となる動きである。ニアサイドへの飛び込みを増やすことは現状を打破する有効な手段の一つだろう。城や柳沢といった日本代表の先輩FWも苦手としているこのプレーはタイミングと瞬発力が重要。筋力を鍛えればそれも可能になるだろうし、ニアでDFを引きつけて潰れる、というコンビネーションも生まれ、プレーの選択肢が飛躍的に広がるだろう。

国見ではあまり見られなかったが、グラウンダーのポストプレーについても同様だ。 Wユースのように前線で起点を作って味方の上がりを待つようなスタイルならば現状でも生きてくるが、2列目の選手が平山を追い抜いていくような動きに対しては、今までの習慣からどうしてもタイミングが合わないのだ。

現状を整理すると、問題は平山にも周りの選手にも両方にあるといえる。

ゴール前への動き直しを意識しすぎて、「第3の動き」に対応できない平山。
「第3の動き」を意識しすぎて平山のポストプレーへのフォローが足りない松井、山瀬。

あれだけの才能を持つ平山が、「高さ」でも「ポストプレー」でも“囮”としてしか機能してない状況はもちろん本意ではない。しかし、現状のチームが平山の決定力を生かす「平山のチーム」でない以上、平山には“囮”のプレーも求められるのだ。もし、それが出来ないようならば、先発は高松にするべきだ。もちろん、2列目の松井や山瀬も状況に応じたプレーを心がけるべきだろう。理想は、「平山も生き、チーム全体も生きること」なのだから。

■ 日本ラウンド展望
日本ラウンドのメンバーが発表された。
ボランチの青木に代わって阿部勇。FWの坂田に代わって大久保が入った形だ。元々このチームでは主力級だったこの2人に関わる期待は大きい。怪我明けの阿部。避暑対策を行わなかった大久保。この2人の日本ラウンドからの合流は既定路線だった可能性が大きい。実際にUAEラウンドで疲労しきった選手よりも、コンディションは遙かに良好だろうし、コンビネーションの不安もないだろう。

UAEラウンドでは課題を残した選手のターンオーバーが日本ラウンドのポイントになってくる。

田中達、今野、鈴木など運動力豊富な選手の疲労の蓄積は限界に近く、大久保、阿部には日本ラウンドではむしろ主力としての働きが期待される。そのためには、実戦を離れている彼らにプレッシャーの出来るだけかからない舞台を整えてあげることが重要だ。UAEラウンドでのターンオーバーの失敗の原因となったバーレーン戦は一番のポイント。おそらく2人とも途中出場になるだろうが、この試合は絶対に勝ち点3を取る必要がある。そうすれば、レバノン戦は先発として使える目処が立ち、UAE戦へのコンディション調整がぐっと楽になる。

そのポイントとなるバーレーン戦だが、左サイドで効果的な働きを続けた森崎浩が出場停止というハンデがある。そのため今回の選考では根本の去就が注目されたが、彼は選考されなかった。このことからも山本監督は左サイドには中に入ってのプレーを求めていることがわかる。最有力候補としては成岡が挙げられるが、私は「左サイドにインサイドMFを使う」という山本監督のコンセプトであれば、運動量豊富で守備力もある山瀬を使ってくる可能性も高いと思っている。

「谷間の世代」と揶揄された彼らもずいぶんとたくましくなったものだ。
ここまで来たらなんとしてもアテネの切符を取って、日本サッカーに新たな1ページを刻んで欲しい。

(GAITI)