- 浦和レッズ、好調の秘密を探る
2ndステージ3連勝と悲願のステージ優勝に向けて絶好の滑り出しを見せた浦和レッズ。3節まで終わり、ここまで3試合13得点6失点と数字だけ見ればやや大味さが目立つが、ヴェルディから7点をもぎ取り、強豪ジュビロを完全に圧倒するなど、勢いに乗ったときの破壊力は圧巻の一言だ。昨シーズンまでのエメルソン頼りから脱却し、新しいスタイルを築きつつある「新生レッズ」の強さの秘密に迫りたい。
■“必要悪”としてのオフト・サッカー
03シーズン、オランダ人監督ハンス・オフトに率いられた浦和レッズは、1st、2nd両ステージ共に6位とレギュラーシーズンの成績は必ずしも期待通りとはいかなかったが、ナビスコカップでチーム結成以来の悲願である初タイトルを獲得した。まずまずの結果を残したと言っても良いだろう。しかし、記念すべきカップ戴冠当日にオフトは突然辞任表明を発表する。この理由は定かではないが、シーズン中にすでに来期の監督候補をピックアップしていたというクラブ経営陣のオフト・サッカーへの評価の低さが原因のようだ。フロント曰く、「もっと面白い試合をしなければ成らない」。つまり、このオランダ人監督のサッカーは、フロントにとって「魅力が無く」「内容的に不満」ということだ。
02年のオフト就任当時のレッズは、中心選手の永井や山田がそうであるように良く言えばドリブラー、悪く言えば“球離れが悪い”選手ばかりの自由奔放な集団だった。このチーム状況を改善するには選手全員にまず「規律」や「チームへの献身性」を植え付ける必要があり、ブラジル人監督のチッタが途中でさじを投げてしまったように、それはとても困難な作業である。
しかし、浦和フロントはベストチョイスを行った。ハンス・オフトは、ラモスやカズなど一癖も二癖もある読売勢が兆厘跋扈するかつての日本代表を纏め上げた猛者である。このオランダ人にかかればレッズの選手もかわいいもの。彼の就任後のレッズは、いきなりイタリアも真っ青のガチガチの管理型サッカーに180度方向転換することになる。
オフトはジュビロ磐田の基礎を築いた監督としても知られ、無政府状態のチームに秩序を生み出すことを得意としている。彼のサッカーの特徴は一言で言うと「完全分業型サッカー」。3-5-2システムを基本とし、守備はマークの受け渡しが発生しないマン・ツーマン、ポジションごとに選手の役割を明確に分けていたことが特徴だ。ボールを奪われたときのリスクを考え、フレキシブルなポジションチェンジは行わず、よって選手は初期ポジション通りに「攻撃者」と「守備者」に完全に二分されることになる。このチーム作りの工程は、ベルトコンベア―での流れ作業に似ている。一つ一つの作業は単純で決して難しくは無いが、それを効率的に組み合わせることにより、結果としてある一定のアベレージは保つことが出来る。選手の能力や個性を効率性のために意図的に無視した原始的な組織である。
この方法は、「サッカーの文法」を知らない選手が多い場合でも手っ取り早く組織を作ってしまえるというメリットがある。各選手の役割は明確かつ単純、無理なことは何一つ要求せず、ひたすら効率を重視する。ある意味、科学的なスタイルである。しかし、所詮は流れ作業で作られた規格品。出来あがったサッカーは、エメルソン、田中達也の快速2トップに依存したカウンターサッカーという創造性に欠けたもので、試合展開も単調と言わざるを得なかった。
このような完全分業制の管理型サッカーは組織サッカーへの叩き台としての意味が大きく、いつかは次のステップへと進まなければならない。オフトは何故、次のステップへ踏み出さなかったのであろうか?選手の判断力への不信感、自身の能力不足、理由は色々考えられるが今となっては誰にも分からないところだ。しかし、ハンス・オフトがレッズのステップアップする基礎を作ったことだけは紛れも無い事実である。
■ビルドアップ意識を植え付けるための「1トップ2シャドー」
そして、迎えた04シーズン。「魅力あるサッカー」を見せるためにフロントが選択した人物が、ギド・ブッフバルトとゲルト・エンゲルスのドイツ人コンビだ。彼らに課せられた使命は、単調なカウンターサッカーからの脱却であり、攻撃パターンを増やすこと、つまりはビルドアップパターンの確立である。そこで、大きな働きを見せているのが、昨年加入した山瀬や急成長中の長谷部だ。この2人に鈴木啓太を加えたミドルゾーンの強化が、浦和のブレイクスルーの基盤となっている。
話しは、少し戻って前任者のオフトがチームに就任して1年後の03シーズン当初。この頃、山瀬や長谷部はまだ戦力として計算できる段階ではなく、トップ下にはエジムンドの起用を予定していた。元々FWである彼をミドルゾーンで起用するにはディフェンス面に不安があり、流動的な中盤では彼の守備面での不備をカバーしきれなくなる可能性が高い。現実問題として、その時点では現在のようなサッカーは無理であったし、またシーズン途中での大きなスタイルの変化は危険が大きい。分業制サッカーの継続は致し方ないところだっただろう。
個人のポテンシャルは高くても判断力や精神面に問題を抱える、かつてのレッズの面々。2年間、己を律することを叩きこまれた彼らに、昨年レギュラーとして成熟を深めた山瀬や長谷部、鈴木啓太、平川が加わった04シーズンは、次のステップに踏み出すための全ての駒が揃ったといえる。しかし、エメルソンを中心に強力なFW陣を揃えているがゆえにカウンターサッカーへの呪縛は強く、彼らへの依存の意識を断ち切るには段階を踏む必要があったのだ。
ところで、ビルドアップパターンを増やすには、やはり攻撃に人数をかける必要がある。オフト時代には制限されていたディフェンダーやボランチの積極的な攻撃参加が必要になってくるということだ。次は、彼らが上がる時間を作らなければならない。元々、ドリブル力が高く球際に強いレッズの選手はキープ力が高くタメを作ることには長けている。さらに、山瀬、長谷部を中心にして一度中盤にボールが入れば、今期のレッズであればボール回しも非常にスムーズだ。今度は、ボールを取られたときの攻守の交代時に上がった選手が戻る時間を作らなければならない。素早くボールホルダーに寄せていき、相手を自由にさせずプレーを遅らせる必要がある。また、それによりDFラインを押し上げることも出来、そうしてプレーエリアが狭くなればオーバーラップも容易になるのだ。
現在のレッズは、このルーチンワークが非常に上手く回っており、それが好調の要因になっている。しかし、今シーズン当初は、昨シーズンまでの影響もあり、ボールを奪ったらFWの動き出しに合わせてボールを出すというプレーが反射動作のように刷り込まれており、中盤にボールがなかなか回らなかった。積極的なポジションチェンジやディフェンダーのオーバーラップといったプレーは、チーム全体の共通理解のもとで行って始めて意味が出てくる。何故なら、これらのプレーは「俺が上がった後のスペースは誰かがカバーしてくれる」「ボールを奪われても前線の選手が厳しく寄せてくれるから戻る時間は十分稼いでくれる」といった選手同士の信頼が大切であり、これが無ければ思いきったリスクチャレンジが出来ないのだ。
中盤の頭の上をボールが行き来するような展開では、このような計算されたゲームメイクを行うことが出来ない。そこで、ブッフバルトは中盤にボールが回るようにするために、段階を踏んでチームの意識改革に乗り出すことになる。1トップにエメルソン、トップ下に山瀬、長谷部を並べる「1トップ2シャドー」を採用し、強制的に中盤へボールが回るように画策したのだ。2トップから1トップへと前線の人数が減り、逆に中盤の人数が増えたことにより、トップ下のプレイメーカーにボールが供給され、チームによるビルドアップの意識が少しずつ蓄積されてきた。これは、本来FWである永井を右SHとして使い続けたことにも表れている。例えば、永井をトップ下で使ってしまえば2トップと変わらない動きをすることが予想されるので、山田がトップ下、永井が右サイドという試合もあったほどだ。
しかし、強力なFWを多数抱えている浦和レッズは、本来ならば彼らを出来るだけ同時にピッチに送り出したかったはずだ。それを、チームの意識改革のために敢えて我慢し、チーム全体のビルドアップ意識の蓄積が満ちてくるのをじっと待っていたのだ。そして迎えた、2ndステージ、第2節の東京V戦。ついにエメルソン、永井の2トップがメンバーに名を連ねることになる。これは、もう2トップにしても、むやみやたらに前線にボールを放りこまず、しっかりとパスを繋いでゲームを組み立てることが可能になったという、ブッフバルトから浦和レッズへの合格通知に他ならない。ここに来て遂にレッズは、元々あった個人の高いポテンシャルに加えて、ビルドアップパターンを数多く持ったチームへとステップアップしたのである。
■収穫の時期を迎えたレッズの今後
オフトにより種が蒔かれ、今まさに収穫の時期を迎えようとしている浦和レッズ。しかし、初のシーズン制覇を成し遂げるためには、まだまだ解決すべき課題はある。
まず、レッズの試合を見ていれば誰でも思わずにいられない、ゲームコントロールの不味さ。今回のジュビロ戦でも内容では相手を圧倒しながらも、フィニッシュが決まらず、結局数的不利の相手に一度は同点に追いつかれている。「押してだめなら、引いてみな」という言葉があるが、人数を掛けた波状攻撃もそれが長い間続くと相手も対応に慣れ、意外と防ぎきられてしまうことは決して珍しいことではない。一度ペースダウンして相手の目先を変える、相手に攻めさせてカウンターを狙うなど90分間を想定したゲームプランを頭に描いて戦う必要がある。これも、言うならばチームとしての次へのステップである。
次に、これからは相手チームのマークがよりいっそう厳しくなってくることが予想される。対戦相手によっては、自分たちの良さを出すことよりも、レッズの良さを消してくることに重点を置いた戦い方をしてくるチームも出てくるだろう。そうしたときレッズには相手が突け込みそうな弱点がいつくが見え隠れする。
まず、トゥーリオを中心とする3バックのラインコントロール。例えば、対戦相手がロングボールを放りこんでくるなどの揺さぶりをかけてきたときに、どこまで急造の3バックが耐えられるのかは疑問が残るところだ。これが、上手くいかないと中盤が間延びする原因となり、現在のような人数をかけた攻撃はまず難しくなるだろう。次に、左SHのサントスの問題。試合を見ていると彼のポジショニングの悪さが非常に目に付くのだ。ボールを取られた後の寄せも遅く、ポジション取りも中途半端。彼の裏のスペースはハッキリ言ってレッズの大きなウイークポイントだ。
レッズはチームの特性上、勢いに乗ったときは今までも非常に強いチームだった。しかし、一度流れを失えば意外な脆さを見せ、ことごとくサポーターの期待を裏切り続けてきた。全ての準備が整った今シーズンは、その負のスパイラルから抜け出す絶好のチャンスである。ナビスコカップ準々決勝で対戦する横浜Fマリノスは、レッズとは正反対の安定した常勝チーム。早くも浦和レッズは試金石の試合を迎えることとなる。
(GAITI)