- ■「現代サッカーにおけるモビリティーとスペースの関係」
モビリティーとは何か?
これは以前、ディフェンス戦術の類型の補足説明を書いたときに問題になった部分だ。
そこでは瀧井氏の言葉を借りて、モビリティーを「攻撃の活動性」というやや抽象化された表現として紹介した。
瀧井氏は著書の中で、曖昧なままのサッカー用語の定義にこだわりながらも、独自の解釈によって線引きした用語で議論を進めていた。
中にはノーマンズランド(現在で言うオープンスペースとほぼ同意語)などの、現在では聞かれなくなった言葉も含まれている。
モビリティーもそうした"不定義用語"の1つである。
英語を直訳するならば <Mobility : 移動性、可動性、動きやすさ> という意味になっている。
現在、”モビリティー”はしばしば "流動性"と約される場合が多いが、これは少し本来の意味とかけ離れているように思う。
流動性というとかなり聞こえは良いのだが、モビリティーには変幻自在のボール回しや
それに伴なうローテーションを意味するものではなく、表現としては適切でないだろう。
では実際、モビリティーとはどういう意味なのだろうか?
- ■現代のサッカーにおけるスペースの発生
1950年代のハンガリー代表「マジックマジャール」は、
ポジションチェンジによるスペースメイキングを戦術に取り入れたことでフットボールに1つの革命を起こした言われている。
オールコートマンツーマンが主流だった当時、選手達はピッチ全体に広がり、マンオリエンテッドなポジショニングをとっていた。
そのためマジックマジャールはポジションチェンジをするだけで簡単にスペースを作ることが出来ていたのだが、
守備戦術の主流がマンツーマンからゾーンディフェンスに変化してしまった現在、スペースの概念の捉え方が当時のものとはかなり変化してしまった。
つまりチーム全体の守備がゾーンディフェンスになってしまった時点で、
先のマジックマジャールのような単なるポジションのチェンジではスペースがほとんど生まれなくなってしまったのだ。
現代サッカーを象徴する言葉として、「No time & No space」というものがある。
これは激しいプレッシングとそれに伴なうコンパクトなプレーエリアが選手の考える時間と使えるスペースを削っており、
それがまさに現代サッカーだというものなのだが、しかし本当にそう言えるのだろうか?
たぶんそうではないのだ。
よくよく冷静に考えてみれば、この考えは適切ではない。
1点目として、ディフェンス戦術の類型の補足説明にあるように
現代のサッカーでは中盤の人数というのは増加傾向にある。
非常に逆説的ではあるが、これは単純にゴール前に構える選手の数が減ることを意味している。
つまりゴール前の人数が減れば、必然的にゴール前のスペースも増えるのだ。
2点目に、現代サッカーは中盤の人数の増加と供にプレーエリア自体をコンパクトに保つような傾向がハッキリと表れている。
これを実現するためにDFラインはゴール前に構えるのではなく、高い中盤のすぐ後に構える時間が次第に増えるようになっているのだが、
これもゴール前にそもそも人がいない時間が増加しており、実際にはゴール前には広大なスペースが広がっていることを示している。
また、プレーエリアがコンパクトでありながら中盤においてプレスを仕掛けるのが当たり前になっている現代のサッカーでは、
ボール中心にプレスをかけていくと守備全体が必然的に片サイドにシフトしてしまう。
裏を返せば、逆サイドにはノーマークのスペースが広がっていることを示している。
現代サッカーには本当にスペースはないのだろうか?
たぶん違うのだろう。攻撃の為に使えるオープンなスペースは十分過ぎるほどあるはずだ。
むしろ以前のサッカーよりもそういったスペースは広がっているほどだ。
「今のサッカーはプレスが激し過ぎてサッカー本来のエンターテイメントに欠ける。昔のサッカー良かった。」
などと根拠のないことを言うオールドプレーヤーは多いが、論理的に考えてむしろスペクタクルな試合を演出する素地は現代の方が整っていると言って良いだろう。
一方で、こういったサッカーの質的変化が生み出したこのスペースをいかに効率良く突いていくことが出来るかが、チームの攻撃の成否に影響してきていると言える。
- ■モビリティーの連動性とスペクタクルの可能性
モビリティーとはこれらの広大なスペースを突くことを目的とした動きのことなのだ。
故にかつてのサッカーにおいて今現在の行われているようなモビリティーは存在しなかったということになる。
ポジションをチェンジするだけではマークがずれない、またその程度ではスペースも出来ないためにスペースを突くために
戦略的なプレーとそれを行うだけの早い判断やスピードが求められるようになっているのだ。
モビリティーのイメージを最も簡単に表したプレーとしては、鹿島アントラーズで名良橋が見せるような逆サイドのオープンスペースへの鋭い飛び出しなどが挙げられる。
こう書いてしまうと「モビリティー=スペースへのフリーランニング」と思うかもしれない。
そういう一面も確かにあるだろうが、モビリティーにはスペースの裏返し、即ち狭くて厳しいプレッシングエリアを一気に抜出す際にも用いられる。
2列目から一気にディフェンスラインの裏まで走りぬけるような効果的なプレーもモビリティーに含まれるし、
サイドでキープしたボールホルダーの後をタイミングを合わせて素早く駈け上がるようなプレーもモビリティーだ。
つまりモビリティーとはスピード感を前提としたスペースを突くフリーランとそれに伴なうポジションチェンジであり、それらがチームプレーであるようなものを言う。
やや意味合いの似ているフリーランよりもシチュエーションや目的や連動性がよりハッキリとしている。
モビリティーの意識のしっかりしているチームではこれらが連続的に連動して起こる。
そうすると、なるほど瀧井氏の言う通り攻撃の活動性という言い方も確かに適切なように感じる。
当たり前に聞こえてしまうかもしれないが、
現代のサッカーではダイレクトによるショートパスとオープンスペースへの展開が非常に有効である。
狭いプレッシングエリアでの攻撃は、現在スペインリーグではダイレクトのショートパスを連続的に繋ぐものが見られる。
逆にスペースを突くタイプではキエーボのオープンスペースを使ったサイドアタックなどが有名である。
動きの連動性という意味ではジュビロ磐田を挙げていいが、こちらの場合はむしろ流動性という言葉がピッタリだ。
既に述べたように現代サッカーでスペースは広大にあるのだが、多くのチームがそれを使えないでいるのも確か。
何故ならそういった空いたスペースを使わせないような工夫も各チームが行っているためだ。
そういった相手のオープンスペースを使うには非常に組織的なプレーが求められるため、
多くのチームが思惑通りにプレスの餌食になっている一面を否定できないだろう。
だが、プレスに耐えるためにやたらとフィジカルを鍛えるのは対応が内向きだ。
そういう意味でもオープンなエリアを使ったスペクタクルサッカーにモビリティーは欠かせないものと言える。
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