■「京都のオートマティックシステム」(2003/04/21)」
今回は京都の過去2試合からその戦術をレポートする。
<神戸戦(1-0)、柏戦(0-1)>
神戸・柏については4-4-2のオーソドックスな戦術であるために解説は避けるが、
京都の戦術の最大の特徴は何と言っても3-6-1システムの分厚い中盤を利用したオートマティックなプレーにある。

■黒部の特徴的なポストプレー
まずは攻撃時での特徴を挙げていくことにしよう。
京都の攻撃の起点はワントップである黒部の強靭な肉体を生かしてのポストプレーがほとんである。 だがチームの方針として黒部をサポートする準備も万全であり、図のように2人のOHの動き出しによってうまく相手のマークを外している。

OHがやや上がり目にポジションをとることでボランチの注意を引き、且つ黒部がかなり下がって受けるために相手守備陣はポストプレーにチェックには行きにくくなっている。ボールの落ちつき所を得たことで周囲選手の動き出しにも変化が現れる。

松井と鈴木慎吾の連動したフリーランニングも彼らがボールを保持していない状況であるからこそ出来るプレーであり、 変わりにワントップの黒部のポストの位置は、通常のチームから考えれば相当違和感があるほど低い。 ポストプレーへのサポートがこれほどあるチームも珍しいが、このことが逆にそのプレーの重要性を表しているとも言えるだろう。

■前線の動き出しの連動性
ワントップによる得点力不足は京都においては松井や鈴木慎吾といった高いストライキング能力とテクニックに秀でた選手によって十分補うことが出来ている。

図はOHとSHの連動した動きの一例である。
神戸戦での富田の決勝点もこのパターンにより松井が右サイド裏に飛びこんだ後の”SHの中央への絞り”から生まれたものだ。

これらのポジション間のフリーランニングの連動性は京都の戦術の基本事項である。 逆にいえばFWが少なく中盤が厚い陣形では中盤から飛び出す時間をどこかで作る必要があり、 しかもそれを行うはずのFWのポストプレーはワントップの黒部の出来にかかっており、 若干のサポート体勢はあるものの彼に相当な負担を強いていることは明白だ。

だが、黒部のポストが機能しない場合、京都の中盤からのフリーランニングに支えられた攻撃力は劇的に威力を失う。

京都の攻撃が試合毎に波があるのもこの影響が大きい。
黒部が田原に交代した神戸戦の後半、もしくは代表戦を控えた負傷の黒部が強行出場した柏戦などはポストプレーの不出来から攻撃は低調であった。ただ、神戸戦については、後半カウンター気味で攻める時間帯が多く松井が右サイドにポジションチェンジしてスピードを活かした突破で局面を打開することで攻撃自体は停滞はしていなかった。

プレーの連動性によるオートマティックな戦術においてはことの他機能しなかった場合の影響が大きく、 またそのことをピッチ上で感じ取れる選手が現在の京都には存在しないことも問題だ。 本来ならば機能不全を起こした段階で別の戦い方、あるいは展開に切りかえる必要があるだろう。 攻撃の完成度は高いものの、動きがやや自動的過ぎて試合展開や局面によるプレーの選択の面で課題が多い。

とはいえ、若いチームではある程度仕方のないことなのだろうが。

■3-6-1の守備
次に京都の守備戦術について見ていくことにしよう。
3-6-1のこのシステムでは中盤を厚みを生かした守備が有効であるが、京都においてもそれは特徴は変わらない。

図は守備時の組織プレーのワンシーンである。
守備時においてゾーンディフェンスを重視した3-5-2と同様にSHは縦を切ることに徹し、 OHは追いこんだ相手のサイドプレーヤーに積極的にチェイシングとプレスを仕掛けていく。 京都ではワントップの黒部もOHの位置まで下げ相手の中盤底からの展開を未然に防いでいる。


■前線のチェイシングとプレスの問題
単純に考えれば中盤が厚い3-6-1ならばプレスはより機能しやすいのではないか?
と考えてしまいがちだが実際はそうではない。

なぜならプレスの前提には組織的に圧縮されたプレーエリアというのが不可欠であり、広大なDFラインの裏をカバーしなくともよいのは前線のチェッキングが効いているからに他ならない。それならばDFラインからのしつこいロングボールでズルズルとラインを押し下げなくとも良くなるからだ。

では京都のワントップで同様のチェッキングが可能かと言われると、それに関しては3-5-2の方が優れているのだ。 ワントップでは論理的に考えても2トップなどに比べてDFにチェックには行きづらい、というよりチェック自体が簡単にパスやドリブルでかわされて無効になってしまう。連動してボールプレッシャーとパスコースの限定を行うには最低でも2人はいるであろう。

つまりチェッキングをせずに中盤が厚いだけでは相手DFラインから正確なロングボールが入ってしまいプレスが生かせない。 実際、京都の中盤のプレスもハーフラインを超えたあたり、OHもチェックにいけるくらいの位置から初めて効き始め、それよりも相手守備陣側でいざプレスを仕掛けようとすると辛いものがある。 中盤自体は厚いが、プレスが3-5-2のように機能するわけでもない。

京都ではSHが少々長い距離を走ってでも前線のチェックに参加したり、 またその際にはOHがSHのポジションにこれも連動した動きでサイドのカバーリングに入っていく。 もちろんOHだけではサイドのスペースをカバーできないのでSHが上がった分は、サイド寄りのDFがスペースを埋めるように動く。

中盤が厚いのにプレスが効かないのでは意味がないと一瞬考えてしまうがそうではない。 OHが多いために攻撃時の飛び出しなど攻撃面で色を持たせることが可能で、総じて3-5-2よりはFWが少ないが攻撃的な印象を受ける。 3-5-2と3-6-1を比べると中盤が厚くなるのにプレスは効きづらくなり、FWが少ないのに攻撃力は上がるということになる。

ただ前線のチェックのあまりない京都の戦術にあってDFライン自体が高いのは面白い。 上記のことでいくとロングボールでズルズルと下がるはずのDFラインはトルシエの元でDFラインのコントロールを身に付けた手島と対人能力に優れたDFがそろっており、何とか対応できているのだ。 (実はこのDFライン、トルシエのそれと共通点が多い。手島のラインコントロールと左CBの角田の正確なロングフィードなどまるでコピーのようだ。)

DFラインに比べるとボランチの役割は若干守備的でオーソドックスだ。
石丸、斎藤からの攻撃の展開はひどく少ない。
とはいえそれも前方に攻撃を組み立てられるOHが2人も控えているからに他ないのだろうが、 だがそのために前線の3人が孤立してしまうシーンも見られ、もしここから攻撃が展開できれば前線やサイドはもっと自由に動き回れることになるだろう。 逆に言えば、システマティックな連動にはそういった役割分担の方が適しているということなのだろう。

3-6-1システムの可能性は3-5-2の概要ユース戦術の項でも述べたが、現在リアルタイムにその可能性が検証できるのが今の京都ということになる。

(seri)