■「躍進のファースト・ステップ(札幌)」(2004/04/11)

<目次>
柳下監督の目指すサッカースタイル
プレッシングサッカーの実践
攻撃の連動性
持ち込まれた磐田の方法論
今後の課題

J-league division2 3rd,4th-week
・コンサドーレ札幌 vs ベガルタ仙台 (1-0)
・湘南ベルマーレ vs コンサドーレ札幌 (1-1)
 <コンサドーレ スタメン>

    清野  新居

      砂川
三原          岡田
    田端  鈴木

  吉瀬  西澤  曽田

      藤ヶ谷
今回はJ2リーグ第3・4節の2試合からコンサドーレ札幌戦をレポートする。
昨年と体制を一新して望む札幌・柳下新監督のチーム作りに焦点を当てる。

■柳下監督の目指すサッカースタイル
札幌といえば、2002年シーズンのJ1リーグ史上最短の降格劇が記憶に新しいところだろう。
降格の主な原因は、監督交代に伴うチーム方針の大きすぎる変更に選手達がついていけなかったことが挙げられる。 2003年に何とか戦力を整え昇格を目指したが、比較的高いはずの個人の能力もそれが最後までチーム力に反映されることなく、中位に甘んじている。

劇的な変化があったのは昨シーズン終了後のHFC(北海道フットボールクラブ)の発表からだ。
それは昨年までのチーム強化費用を8億円から3億円に圧縮するという内容のもので、実質のリストラ宣言であった。 ネックとなったのはHFCが抱える30億円もの強大な赤字で、山瀬・今野・佐藤などの有力選手をそれまでに放出している経緯を考えれば当然の成り行きである。 シーズン前には森下らベテランの大半を放出し、ユースや地元の高校・大学を中心とした新加入選手を大量に一軍登録せざるを得なかった。

そんな過酷な状況の中で唯一の吉報といえたのが、元磐田監督である柳下氏と早い段階で監督就任の話し合いをつけることが出来たことである。 柳下監督は最初の記者会見の中で、コンサドーレ札幌の今年の目標を「上位5チームに入ること」、 また目指すチームのスタイルについて「アクションサッカーを目指す」と述べている。 「アクションサッカー」と聞いても最初は今ひとつイメージが沸いてこなかったが、実際にリーグが開幕して試合を見てみるとその意味が徐々にわかってきた。

柳下監督の意味する”アクション”とは受動を表す”リ・アクション”の反対、能動の象徴だったようだ。
自ら仕掛け、自ら崩す意識がピッチ上のサッカーに確かに現れており、それはカウンターサッカー・リアクションサッカーを行ってきた札幌にとって全く新しい試みだったと言える。 ”前線から積極的にプレッシングを仕掛け、スペースを見つけて相手より早く動き出すサッカー”

つまりそれは磐田のサッカーだった。

■プレッシングサッカーの実践
柳下監督が就任してから札幌のサッカーは変わってしまった。
もちろんいい方向にである。

象徴的だったのは札幌が仕掛ける前線からのプレッシングだった。
札幌は伝統的なカウンターチーム。前線から積極的に守備を行うような戦い方には全く不慣れなはずだ。 にもかかわらず、それが意外なほど良く機能する。 もちろん、対戦相手がJ2中位のクラブであるということもあっただろうが、その内容を見ればそれが付け焼刃である印象はなく、 しっかりとした方向性のもとで組み立てられたものであることに間違いはなかった。

基本的にプレッシングを効果的に仕掛けるにはいくつかの約束が必要だ。
どの場所からどんなタイミングで仕掛け、どのポジションの選手がどのような形で、誰にどんなプレッシャーをどれほどかけるのかををあらかじめ想定しておき、 それをチーム全体が実践しながら修正していかなければそれが効果的に機能することはない。 不遇のチーム札幌に突如現れたプレッシング戦術は間違いなく柳下監督の持ち込んだ指導によるものだ。 またそのプレッシングのやり方が磐田のそれと酷似していることからも、これが磐田の遺産のであることは明らかだった。


(『J SPORTS:2004年シーズンJ2リーグ第3節 札幌 vs 仙台』より)

開幕から積極的なプレッシングを見せる札幌だが、完成度の点ではまだ物足りない部分が多い。
図は実際の札幌の積極的なプレッシングの例だが、しっかりとしたプレスでボールを奪えているシーンもある一方で、 ディフェンスラインとの連動に問題を抱えており、前への意識の強いMF陣に比べDFライン押上が出来ておらず、 図のようにバイタルエリアに相手が使える比較的自由なスペースを与えてしまっている。


(『J SPORTS:2004年シーズンJ2リーグ第3節 札幌 vs 仙台』より)

また、選手達を片方のサイドに密集させスモールフィールドを作り出すこういったプレッシングにおいて、 プレスをかけた上で逆サイドにボールを振られてサイド攻撃を許すことは最もやらせてはいけないことの一つだ。 なぜならば、この逆サイドに展開された場合の失点というのは、先ほども挙げた磐田のチームにすら起こりえる問題であるだけに、プレスを仕掛ける場合にはこのことを常に意識しておかなければならない。 しかし図を見ると本来ならば切っておくべき逆サイドへのパスコースをつぶしきれていないのがわかる。

まだ開幕したばかりということもあって、全体としての整合性はまだまだとれていないといった印象だ。

■攻撃の連動性
札幌は現段階では攻撃が素晴らしいとまだ言えない。実際、得点もそう多くはない。
それでもこのチームが何を目指そうとしているのかは、どこかの代表と違ってはっきりと読み取ることが出来る。


(『J SPORTS:2004年シーズンJ2リーグ第3節 札幌 vs 仙台』より)

図を見ても明らかなように、FWに一方が受けて後ろに落として第3の動きでスペースに動き出した選手を使おうとする意思が伺える。
柳下監督が声をかけて指導するシーンも見られ、このチームが目指す自ら動いてチャンスを作る”アクションサッカー”の一端が垣間見える。

■持ち込まれた磐田の方法論
最初に藤田選手を見たのはJ2で甲府と水戸と鳥栖が最下位争いを繰り広げている時期だったと記憶している。 ”藤田”といって日本代表の藤田ではなく、ヴァンフォーレ甲府の藤田 健選手だ。

当時は甲府の試合を見ることはなかったが、しかし時折見られるゴールシーンダイジェストには奇妙な映像がいつも映りこんでいた。 最初の印象は「まるで磐田の選手みたいだ」というものだった。 芯のぶれない体幹の強さを持ち、卓越したドリブルで相手を交わすと、カバーに入った選手の間合いをはずすラストパスで常にゴールを演出する。 そして何より両足から繰り出される国内トップクラスのFKの精度からの比類なき得点力は異様ですらあった。

「甲府にすごい選手がいる」
当時周囲にそう風潮していた私は、自然と彼の経歴に興味を持つことになる。
どの高校で、どんな監督に指導を受けたら、あんな選手になるのだろう?調べてみると意外なことがわかった。
「磐田ユース−磐田−甲府」
これが藤田の経歴だった。それと同時にその藤田でさえ弾き出される磐田の異常とも言える選手レベルの高さに愕然とした。 結局、翌年から藤田はチーム順位の上昇とともに名も知られるようになり、今ではJ2ベストイレブンの常連となっている。

確信したのは、磐田で出場機会すらなかったはずの選手ですら、ダイジェストでもそれとわかる特徴がはっきりと現れていたこと。
つまり磐田は国内の強豪クラブというだけでなく、同時に独特のスタイルを持った「磐田の穴」ともいうべきサッカー養成所でもあったのだ。 当然、そこに勤める監督やコーチは長年トップチームとして培ってきたノウハウを学習し、選手たちに教育してきた経緯がある。 磐田が他のチームのように、安易に外国人の選手や監督を連れてこないのにはそういう文脈が存在するためだともいえる。

そう考えると札幌の監督に柳下氏が就任することは重要な意味があった。
コンサドーレの現在のスタメンの平均年齢はおよそ22歳。本当に若く、まだまだ吸収力のある年代だ。
「柳下監督の指導は細かくてわかりやすい」
「柳下監督のサッカーは楽しくてしょうがない」
札幌の若い選手は口をそろえて言う。
柳下氏が監督としてではなくまずはコーチとして、磐田時代の経験を生かした手腕を今まさに発揮していることは間違いないだろう。


(『J SPORTS:2004年シーズンJ2リーグ第4節 湘南 vs 札幌』より)

図は札幌の遅攻時の動きを示したものだ。
ここで見られるウェーブの動きについて、今更語る必要もないだろう。 もちろんこれが昨年までの札幌に皆無であったことは言うまでもない。 トルシエも持ち込んだウェーブは、当時の代表はもちろん、磐田の試合でも非常に良く見かけることができた。 しかし一歩視点をクラブにまで落とすとこれが実践できているチームは磐田を除けば全くないと言っても過言ではない。 そういった幾多の強豪をさしおいて札幌がこれを実践している、代表での有益な理論がクラブチームに全く浸透しないことに大きな問題がある。

「西みたいなタイプもいるし、トシヤみたいなタイプもいるから、オープン攻撃を主体とした3-5-2になることは、まずないと思う」
名波は磐田のサッカーをこういうように、確かに磐田のサッカーはオープン攻撃のスタイルをとらない。 要は、これはN-BOXに象徴されるように、磐田には典型的なWBをおいた布陣を取らないためだ。 3-5-2自体が両サイドのWBのモビリティーを最大限に生み出すために考案されたものであるという経緯を考える限り、 3-5-2のシステムでWBがいないとなるとこれは非常に難しいだろう。 当時、監督だった鈴木氏は「うちにはWBができる選手がないから、そういうものを必要としないサッカーを目指した」と言っている。

そもそもWBのオープン攻撃やモビリティーといったものは、つまり空いているスペースに自陣から大きく走りこむことで マークがつかない選手でサイドを突破しようとする狙いがある。 それを行うためには運動量と走力と鋭いドリブルやセンタリング、加えて高い守備力を併せ持つ選手が必要で、磐田にはそれができる典型的なWBがいなかった。 しかし引いて守られる磐田にとってサイドから相手を崩すためには、どうしても鋭いサイドアタックを仕掛けて相手を揺さぶる必要がある。
「サイドの選手はいないが、サイドを攻める」
この一見すると矛盾するような課題に磐田が利用したのがウェーブの動きだったのである。


(『NHK BS1:2004年シーズンJ1リーグ2ndステージ第11節 東京V vs 磐田』より)

図は磐田のウェーブの動きを示した図だ。
磐田の解答は中央のMFがマークをはずしながらサイドに侵入することで、結果的に効果的なサイド攻撃を演出できるという画期的なものだ。 このウェーブを使ったサイド侵入は、走力には優れていなくても動きの連動性をより一層高めることで、相手をかわすのが得意な選手をサイドにいい形で走りこませることが出来る。 磐田は高いMFの質を落とすことのないこのスタイルでチームとしての完成度を高め、Jリーグのタイトルを独占してきた。

しかしこのスタイルには致命的問題がある。
それはサイドへの動き出しを引き出すためには、どうしてもボールポゼッションが求められること、 またWBがいないために相手のサイド攻撃に対応できないという2点がそれだ。 前者について言えば、それは磐田のスタイルとテクニックを持ってすれば十分実践できるレベルにある。 後者については、磐田は前線から激しくプレッシャーを与えることでWBが攻めあがるだけの時間とスペースを与えないようにしていた。

ひるがえして、札幌の現在のサッカーを見てみると面白いことに気がつく。
3-5-2でプレッシングサッカー、中盤に三原、砂川、岡田というテクニシャンの3人を並べる布陣とウェーブからのサイドアタック。 磐田のサッカーに多くの部分で共通する要素が見られる。

■今後の課題
柳下監督が持ち込んだサッカーを一歩一歩確実に消化している札幌だが、当然ながら課題は多い。
例えば今の札幌は若さを生かして90分間休まずプレッシングを仕掛けている状態だが、
これがシーズン途中の体力の落ち込む時期に同じように実践した場合に起きるさまざまな問題を回避できるのか?
それができなくなった場合の別のスタイルを紛いなりにも実践できる必要があるし、それらを使い分ける判断も覚えなければならない。

先ほど指摘したようなDFラインと中盤との連動性も問題だ。
DFラインのコントロールというのは札幌にとってみれば永遠の課題とも言えるが、だが、これを柳下監督が克服させることが可能なのか?
また、監督の時折指摘しているようにFWが守備の意識が高く攻撃の参加する動き出しが遅くなっている点や、
ショートパスからのボール回しができず、ロングボールが多くなりすぎて効果的な攻撃を実践できない点も問題だ。

細かい項目を挙げていけばほとほときりがない。


(『NHK BS1:2004年シーズンJ1リーグ2ndステージ第11節 東京V vs 磐田』より)

図は札幌も持ち込んでいるウェーブの動きは本家がどのように活用しているのかの例だ。
磐田のウェーブは既に相当の洗練を見せており、この場面では福西がショートパスと交差しながらゴールとは逆方向に動き、 ポストに入ったグラウの周りをウェーブしながら第3の動きによりマークをはずして裏に抜け出そうというシーンだ。 相手は突破力のある福西のグラウのマークを狭い局面でのドリブルをケアしながらスイッチさせる必要があり、実際の対応は困難を極める。 こうなると現実的にはまともな対応は不可能。相手はディレイして味方が帰ってくるのを待つしかない。 同じものでも、使う側の熟練度とレベルに応じて効果には雲泥の差がある。

昨年柳下監督が率いたジュビロ磐田が札幌とは比べ物にならないほど高いレベルでサッカーを行っていたこと、 今の札幌にとって磐田の行うサッカーがまるで手の届かないところにあるは誰の目にも明らかだ。 しかし、それでも柳下監督は昨年とは打って変わって楽しそうに監督業に取り組んでいる。 どこかの誰かが作った質の高いサッカーを継続させる難しさではなく、若い選手に自分の目指すサッカーの方法論を教え込み実践させてチームを”1”から作る楽しみ。

彼はそれを享受している最中なのだ。

(seri)

<目次>
柳下監督の目指すサッカースタイル
プレッシングサッカーの実践
攻撃の連動性
持ち込まれた磐田の方法論
今後の課題