■身の丈にあったサッカー
J-league division1 6th-week
・大分トリニータ vs 横浜Fマリノス (1-1)
[ 大分 スタメン ] | [ 横浜FM スタメン ]
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マグノアウベス 梅田 | 安 清水
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| 奥 佐藤
根本 ビテュヘ 小森田 吉田 |
| 那須 ユ
|ドゥトラ 中西
有村 三上 サンドロ 山崎 | 松田 中澤
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高嵜 | 榎本(達)
今回はJ1リーグ第6節から大分対横浜FM戦をレポートする。
ベルガー新監督を迎え、戦い方を一新した大分の戦術に注目する。
■かくして伝統は破られる
そんな印象はないかもしれない。
だが大分は見かけによらず、したたかなチームだ。
チームの総合力という意味ではJ1の中ではやや見劣りするものの、J2時代から続く伝統の堅守からの速攻や
狙い通りのロースコアゲームに持ち込む試合運びなどは、チームの編成に失敗した昨年度のJ1残留の生命線になった。
そういった大分に、オランダはユトレヒトで指揮をとるハン・ベルガー氏の就任が決まったことは、Jリーグの開幕前からの話題だった。
サッカー先進国であるオランダで長年チームを率いる現役の監督が、Jリーグで一体どのような采配を見せるのだろうか?
彼のサッカースタイルがチームに定着するまでにそう時間はかからなかったようだ。

(『J SPORTS:2004年シーズンJ1リーグ1stステージ第6節 大分 vs 横浜FM』より)
図は今シーズンの大分のプレーエリアの変化をよく表している。
見てもわかるように、大分の前線からDFラインまではセンターサークルとほぼ同じ18.5mという極薄の空間にそのまま収まってしまっている。
現代サッカーのセオリーではDFラインとFWのラインが形成するプレーエリアは、通常は35mが適切であると言われており、プレッシングサッカーで有名なあの黄金期のACミランですら前後30mの空間で選手が納まるように、トレーニングを繰り返していた。
高すぎるDFライン、
厳しい中盤のプレッシャー、
中盤両サイドの”ウィング”を絡めた素早いショートカウンターの攻撃、
ピッチ上から剥ぎ取られた”遊び”の時間と空間。
これらが何を表すか、もうお分かりだろう。
オランダの異邦人は自他共に認める生粋のサッキストであるのだ。
■大分の目指すスタイル
サッキストとは、80年代後半から90年代前半にかけてACミランを躍進させたサッキのサッカースタイルを信奉する監督たちのことだ。
彼らは決して群れることはないが、当時のサッキのスタイルを共有したある種の思想集団ともいうべき存在である。
今でこそ、こういった奇抜な戦術を用いる監督は少なくなったものの、
最近の有名なところで言えばキエーボ躍進の立役者であるデルネリ監督などの理論派にこのサッキストが多い。
ベルガー監督の就任というのは、3ラインによるハイライン・ハイプレッシャーの孤高のサッカースタイルがJリーグに初めてもたらされたのと同時に、
自陣を組織的に埋めたカウンターサッカーを得意とした大分が、その重い腰を上げゴール前から撤退する瞬間でもあった。
具体的に、大分の戦術について見ていこう。
サッキストであり、またイングランドサッカーの影響も多分に受けるベルガー監督のスタイルは、双方のサッカーのかけ合わせたような特徴を持つ。

(『J SPORTS:2004年シーズンJ1リーグ1stステージ第6節 大分 vs 横浜FM』より)
図は大分の攻撃の場面だ。
マグノ・アウベスがボールをキープすると、相手のディフェンスが戻りきる前に素早くサポートのアクションを起こし、
ボールを受けに走りこんだ吉田がそのまま2人のCBを振り切ってシュートまで持ち込んでいる。
これはボールを奪ったら前線のFWに素早く当て、それと同時にサポートを行うことでディフェンスが戻りきる前に攻撃しきってしまおうとする、
プレミアリーグではよく見られる攻撃の展開だ。

(『J SPORTS:2004年シーズンJ1リーグ1stステージ第6節 大分 vs 横浜FM』より)
次の図は大分のディフェンスラインのコントロールのシーンだ。
横浜は、奥が大分の厳しいプレスをかわしたところで出しどころを探すが、
大分のDFラインはそのタイミングを見計らうようにFWを完全にオフサイドポジションに追いやっている。
先ほどのイングランドスタイルの攻撃とは一転して、今度はサッキやトルシエのような積極的で神経質なラインコントロールが現れる。
大分はこのように相手のFWや中盤にスペースを与えないようプレッシャーをかけ続けることでFWの活動性を封じ、
常に彼らをオフサイドラインの後方に追いやれるようにする。
中盤のプレスは、たとえそれがかわされたとしてもオフサイドトラップのタイミングを図る上での重要な要素になるのだ。
■ラインディフェンスの破られ方 [1]
既に述べたように、今の大分の戦術はこれまでのJリーグには全く存在しなかったタイプのものだ。
それはあたかも戦術の見本市のような印象すらある。
大分のような積極的なライン戦術は、機能時の効果が劇的であるという以上に、破綻時のチーム力の低下が顕著であることが知られている。
特に4-4-2システムのスモールフィールドからのプレッシングというのは、その機能性以上に破られ方についてが語られる場合すらある。
では、ラインを形成する戦術はどのように破られるのだろうか?
この試合の中からいくつかのシーンをピックアップして見ていくことにする。
[1] 前線で基点を作られる場合

(『J SPORTS:2004年シーズンJ1リーグ1stステージ第6節 大分 vs 横浜FM』より)
図は横浜の久保に楔のボールが入ってからの展開を示したものだ。
大分のようなラインコントロールが生命線となるタイプの守備戦術の場合、最も警戒しなければならないのがラインコントロールを無効化するようなプレーへの対応だ。
このシーンでは久保が前線で相手を背負ってボールをキープしたがために、大分はDFラインを上げることも下げることもかなわず、
一瞬だけDFラインがボールウォッチャーのような形になってしまうと、DFラインは2列目からの飛び出しにうまく対応できなくなる。

(『J SPORTS:2004年シーズンJ1リーグ1stステージ第6節 大分 vs 横浜FM』より)
これも構造的には上記と同じ場面だ。
DFラインの中でヘディングを使ってボールの基点を作り出されたことで、DFラインが本来制御すべきオフサイドラインのコントロールが効かなくなる。
ライン戦術はDFラインの前への意識が強いために、こういった後ろ向きの対応を極端に苦手としているのだが、
それもそのはずで、本来はライン戦術が機能していれば2列目からの動き出しの想定自体を行う必要がないためであるのだ。
■ラインディフェンスの破られ方 [2]
[2] 中盤のプレスが効かない場合
上記の図は、ライン戦術の先駆けともいえる80年代後半のACミランのラインコントロールの一例だ。
当時のミランのサッカーでは今ほどプレッシングとラインコントロールのタイミングが厳密ではなく、
プレッシャーのかかりが緩い状態からでもDFライン単独で相手をオフサイドトラップに誘う場面が目立つ。
そういう中で、どうしてもプレスの緩い時間帯では、バラバラのタイミングで無理に上げたDFラインの裏を取られて失点することも多かった。
サッキが現在にしてみればこういった極端な対応を図った陰には、現在とは大きく異なるオフサイドルールに関する解釈の違いがあった。
当時はまだオフサイドポジションに選手がいた場合の緩和処置というものがなかったのだ。
つまり現在のルールにあるような「プレーの関与の有無」は一切通じないもので、
とにかくパスが出た瞬間に誰か一人でもその後ろに追いやれば、自動的にオフサイドを取れていたのだ。
現在こういうタイプのDFラインが見られなくなった背景には、攻撃側に有利に働いたルール改正がある。

(『J SPORTS:2004年シーズンJ1リーグ1stステージ第6節 大分 vs 横浜FM』より)
今度は大分のDFラインとプレスの関係を見てみることにする。
図は横浜が中盤でボールをキープし出した時間帯の大分のDFラインの状態がよく現れている。
この場面では、後半に戦い方を変えてきた横浜の選手たちが中盤でボールをキープしながらも、DFライン付近で連続的に動き出すことで
大分のDFラインのコントロールミスを誘うことに成功している。
プレスが効かず、相手に自由にボールを持たれたこの場面では、横浜の細かい動き出しにDFラインが対応しきれず、ライン成型の集中力が途切れてしまったために、
最終的に久保に裏のスペースを取られる格好になった。

(『J SPORTS:2004年シーズンJ1リーグ1stステージ第6節 大分 vs 横浜FM』より)
次の場面は大分の中盤のラインが完全にボールよりも後ろになってしまった場合のDFラインの対応を示したものだ。
中盤を追い越されてしまったことで、当然相手にかかるプレスは皆無となり、大分はDFラインを押し上げてボールまで詰めるタイミングを完全に逸してしまった。
一度こうなってしまうと、DFラインは相手FWの動きに合わせるように並走して自陣ゴール前まで後退することになり、
この場面では、そういったDFラインが後退しきらず、スペースのあるうちにスルーパスによってFWを走りこませ得点に結び付けている。
■ラインディフェンスの破られ方 [3]
[3] バイタルエリアを活用される場合
「3ラインを保った4-4-2は、ラインの間を巧みに使うベルカンプやリトマネンのようなタイプの選手を苦手にしている」
ハン・ベルガー監督自身がこう語るように、ライン戦術はラインとラインの間の特にDFラインの前のバイタルエリアのスペースで仕事をされた場合に、
戦術の機能性如何にかかわらず、その弱点を露呈する。

図は再びACミランの対応のミスを示したものだ。
この場面では、DFラインの前で楔を受けたFWを介することでDFがボールに詰める隙を与えず、無理やり押し上げたDFラインの裏をついている。
このようにディフェンスラインの前のスペースでドリブルなどの細かな対応を迫られると、ディフェンダーとしてボールに詰めるのか、
オフサイドコントロールによりボールを奪取するのか、フォーリンバックによりセイフティーな対応に切り替えるのかの判断が非常に難しくなってくる。
ベルガー監督が名前を挙げた選手たちなどは、このスペースで活用してフリーで受けたり、
そこからドリブルやパスなどの柔らかなテクニックと的確な判断力で局面へ柔軟に対応できることからライン戦術の天敵とみなされることが多い。
■身の丈にあったサッカー
「常にサブトッパー、3強の次の地位であることを目指します」
3年連続でUEFA CUP出場を果たしているFCユトレヒトでさえ、目指すべくは3強のすぐ後ろであるとベルガー監督は見定めていた。
たとえばこれはイタリアのキエーボ・ベローナでもそうであるように、
中堅チームにとってはトップチームが群れる順位のちょうど一つ下がクラブの規模的に、ちょうど良いものなのだ。
確かに順位が高ければ大きな大会に出場し莫大な収入を得る可能性もあるが、
試合が重なってくるとターンオーバーを使えない中堅以下のクラブにとってみれば勝ち上がる可能性を考えること自体に無理がある。
だがそれ以上にベルガー監督の試行するサッカーがトップを目指しにくいものであることの方が問題かもしれない。
というのも、先ほどのキエーボの監督であるデルネリをはじめ、多くのサッキストがそうであるように、サッキのサッカーというのは、
長いリーグ戦の中での出来、不出来の差が大き過ぎ、ビッククラブが見せるような安定したパフォーマンスが得難いのだ。
サッキのサッカーで大きな成功を収めることができたのは、結局サッキだけだったという笑えない話もある。
そういう意味では、逆に今の大分にはベルガー監督のサッカーは相性がいいということになるだろう。
もともと4-4-2のシステムは大分が最も得意としたものでもあるし、それを行うための人材もそろっている。
まだまだ強豪とはいえない今の大分だが、その戦術は開幕の数試合目にして急激な浸透を見せており、
こういった身の丈にあったサッカーが旋風を巻き起こす可能性は十分あると言えるだろう。
(seri)
<目次>
■かくして伝統は破られる
■大分の目指すスタイル
■ラインディフェンスの破られ方 [1]
■ラインディフェンスの破られ方 [2]
■ラインディフェンスの破られ方 [3]
■身の丈にあったサッカー