第3回 : 「戦略的1トップシステム」

ラグビーフットボールをその起源とするサッカーは、初期には沢山のFWが一直線に並び、ボールや時には互いの脚を蹴り合う競技だった。 しかし時が経ち、サッカーが競技としての成熟度を増し1つのスポーツとして確立していくと、不思議とゴールを奪うはずのFWの人数は減少していく。 4人、3人、2人と減っていき、現在では何の違和感も無くFWがチームに1人だけという「1トップ」の布陣が見られるようになっている。

少し前まで、1トップといえば比較的戦力に劣るチームが守備の人数を割きつつも、カウンターのための最小限の攻撃人数を確保するために用いる消極的な戦法であった。 しかしここ数年は、スペインリーグを始めとした欧州各国リーグの1トップを巡る状況は一変している。 その戦術が持つ特性を生かして勝ち星を重ねるチームが現れると、かつての守備的な印象は徐々になくなり、時に攻撃的な印象すら与える存在にまでなってきた。 今では強力なFWを多数抱える欧州中の強豪チームまでもが、この新しい戦術を積極的に採用するに至っている。

今回は現代サッカーにおける1トップの意味と役割について幾つか実例を交えながら考えていく。

■1トップの人数の少なさがもたらす特性
3トップは今も昔も攻撃的な特性を備えている戦術であることが知られている。
突破力とスピードを兼ね備えたウィングを前線に配置することで、比較的容易に攻撃を組み立てられるからだ。 対して2トップはオーソドックスな形であり、遅攻でも速攻でも高い機能性を示し、その柔軟性は際立っている。

1トップの場合はFWが1人であることのメリットと、1人しかいないことによりデメリットが共存していることを前提にしなければならない。 具体的には、例えば1トップの場合はFWがたった1人しかいないために、他のシステムのようにゴール前の局面で必要な人数を”安易に”確保することは出来ないために、多くの局面でトップの選手をサポートできるだけの組織的な動きが必要とされてくる。 それは守備にまわった場合も同様で、前線からのチェックの効かせやすい2トップや3トップに比べると、 相手のディフェンスラインにプレッシャーを与えるための、攻撃の起点を作らせないための工夫が必要となる。

こういった1トップが内包する様々な長所と短所を各チームがどのように利用し、カバーしているか幾つかの事例の中から紹介していく。

■ACミランの”DFラインの裏を突く1トップ”
今シーズンのACミランは相次ぐFWの怪我により、昨シーズンまでの形である4-3-1-2の2トップの形ではなく、 シェフチェンコの1トップとそのすぐ後ろにルイコスタと新加入のカカを置く4-3-2-1の布陣へとマイナーチェンジを図っている。

昨シーズンまでのミランは相手陣内のサイドの深いスペースを使うのが苦手であると言われていたが、 それは純粋に中盤の選手の配置との関係上、深い位置まで上がれる役割を負った選手がいなかったためだ。 今シーズンは両サイドにカフーとパンカロという攻撃的なSBを起用し、ポゼッションからオーバーラップを引き出すことでそういったスペースを使うシーンが見られるが、 それでもSBの深い位置からの上がりを待つ余分な時間をかけ過ぎており、サイド攻撃を巧みに行なっているとは言い難い。


(『SkyPerfectv:セリエA 03-04 ミラン vs ローマ』より)
ミランの1トップであるシェフチェンコの動きにはかなり顕著な特徴がある。
最大の特徴は、彼が流れの中から相手DFラインの中央にポジションをとる場面がほとんど見られない点だ。

そのポジショニングには大まかに分けて2通りのパターンが見られる。
第1の動きとして、図のように能力の高い中盤の選手からのロングフィードやドリブル突破からのスルーパスを受けるために、 中盤のボールサイドとは逆のサイド、つまりSBやCBを挟んで対角線上にポジションを取り、DFの背後をとってGKとの1対1を狙う動きが挙げられる。 一般的に1トップのFWはピッチの中央で一度ボールを受け、MFが前を向いてプレーできるようなサポートを行うものだが、 ミランの場合は中盤の選手の能力が非常に秀でており、そういったFWのサポートをほとんど必要としない。 FWが後ろを向いてボールを受けない分は、前目のMFであるカカやルイコスタがFWに代わてにDFを背負い、後ろを向いてボールを処理している。

なぜなら彼らの更に後方には素早いサポートを行なえるセードルフや圧倒的な展開力を持つピルロなど能力の高いMFが控えており、 そういったFWのサポートのない状況でもボール回しに支障が出ることは少ない。 シェフチェンコ自身も中盤のサポートを好んで行なう事は決してしないため、純粋にストライカーとしてフリーとなるポジショニングを行なっている。


(『SkyPerfectv:セリエA 03-04 ミラン vs ボローニャ』より)
第2の動きは、シェフチェンコがボールサイド側にポジションをとる場合にはタッチライン際でDFラインを牽制しながら、ウィング的に振舞う場合のものだ。 これはサイド攻撃が決して得意ではないミランの中でもサイドを直接強引に崩していこうとする珍しい形で、 突破力のあるシェフチェンコのドリブルはショートパスをつなぐミランにあってよいアクセントとなっている。

しかし、1人しかいないFWがサイドに大きく開いてしまうと、ゴール前にポジションを取って肝心のゴールを奪える選手がいなくなってしまう。 そういったゴール前での数的不利を避けるため、ミランの場合は1.5列目のMFであるカカに、シェフチェンコを追い越す動きや シェフチェンコが開いて空いたスペースに飛び込む役割を与えているのだが、まだ新加入と言うこともあり求められたこうした動きを十分にこなせていない場面が目立つ。

中盤にテクニックのあるタレントを抱えることでポゼッションの高めて試合を支配するミランだが、 このようにゴールへのアプローチに幾つか問題を抱えており、タレントに比べ得点力はさほど高くない。

■デポルティーボの”中盤と連動する1トップ”
スペインの強豪クラブであるデポルティーボ・ラコルーニャは、イルレタ監督の元で6年もの長い間、4-2-3-1システムを基調に戦ってきた非常に組織的チームである。 その中で、特に1トップを務める選手は、しばしばリーグの得点王争いに絡むほどの活躍を見せている。


(『SkyPerfectv:UEFAチャンピオンズリーグ03-04 モナコ vs デポルティーボ』より)
デポルティーボの1トップの特徴は中盤と連動した動き出しにある。
フィジカルを生かして相手DFのプレッシャーに耐えるような静的な動作は少なく、1トップと3人のMFが常に動いている状態で早くシンプルにパスをまわす約束事が確立されている。 これには統一された意識とタイミング、それに伴う何十ものパターンプレーが要求されるため、難易度自体は高いプレーだが、 何シーズンも同じメンバーでリーグ戦に望み、練習の大半を組織の連携を高めるために使うデポルティーボだからこそ、これらの役割を各選手が問題なくこなせているといえる。

中盤と完璧に連動するデポルティーボの1トップは、DFラインの裏でフリーでボールを受ける場面が非常に多く、そのほとんどがどこかで見たことがあるような規定通りのパターンプレーである。 特に昨シーズンまで在籍したマカーイやパンディアーニなどの、スピードがあって点で合わせるのが得意なFWがこういった場面で抜け出して大量得点をとる場面が頻出する。

デポルティーボが面白いのは、こういったタイプのFWばかりでなく、ディエゴ・トリスタンなどの彼らとはまた少し違うタイプのFWもうまくローテーションさせる点にある。 マカーイやパンディアーニに比べるとトリスタンは少々異質な存在だ。 FWとしての総合的な能力で言えば彼が最も高いものを持ってはいるものの、裏に抜けるよりもボールを持って前を向いてからのプレーを好むために、 少なくともこのチームにおいては他のFWのように簡単に得点をしているという印象はない。 そのためイルレタは相手のDFラインの裏にスペースがあってショートカウンターが機能しそうであればパンディアーニ、 相手が引いてきてDFラインをこじ開ける必要がある場合にはトリスタン、と各々が持っている能力や特性を状況によって明確に使い分けている。


(『SkyPerfectv:UEFAチャンピオンズリーグ03-04 モナコ vs デポルティーボ』より)
実際、トリスタンは器用な足元を生かしたドリブル突破で1人、2人をかわして得点するような場面が目立つ。 図もそういったトリスタンのプレーの一例で(口で説明するのは非常に簡単であるが)両サイドに引っ張られたDFライン中央のCB2人を一瞬でかわしてゴールを決めている。

■1トップをフォローする2ndストライカーの存在
デポルティーボは1トップシステムの最大の問題点である”ゴール前への数的なサポート”について、非常にユニークな解決方法をとっている。

イルレタはデポルティーボのFWへのサポートについてインタビューの中で次のように述べている。
「デポルティボは確かに4-2-3-1システムでプレーするのが基本だけれど、私の場合、このシステムが容易に4-4-2に変化するようにしている。 それどころか、かなり4-4-2の布陣に近づいていると思う。 今のシステムを私は”非対称の4-4-2”と呼ぶが、それは3人のメディアプンタ(ミッドフィールダ)・ラインのうち、 どちらかの1人がサイドに向かって動くFWとなるようにしているからだ」

・デポルティーボの前線の配置
     パンディアーニ(→トリスタン)

 ルケ    バレロン   ビクトル
(→フラン)       (→スカローニ)
トップ下の天才バレロンは不動のメンバーとしても、
FWのパンディアーニとトリスタン
RHのビクトルとスカローニ
LHのルケとフラン
と、前線のそれぞれのポジションでタイプの違うバックアップを有しているのが今のデポルティーボである。

イルレタが言っているように、それぞれのサイドにはFW的な役割を行なう選手と、MF的な役割を行なう選手がそろっている。 例えば右サイドのビクトルや左サイドのルケはそれぞれレアルユースとバルサユース出身の元FWで、 それに対して、スカローニやフランなどは少なくともこのチームの中にあっては純粋にMF的な動きをするような役割になっている。

「私の狙いは同じ高さに2人のFWがいることだ。ただし、1人は中央で張り、もう1人はサイドに大きく開く。 二人のメディアプンタのうち、1人はFWの背後、もう1人はサイドにポジションを取る。そういった特徴があるから、我々のシステムは厳格な4-2-3-1とはいえないんだ。 (2人の特徴の違うサイドアタッカーについては)まずはサイドに開いてプレーしてもらいたい。 しかし同時に、クロスを上げるだけでなく、ペナルティーエリア内に侵入し、相手ゴールへも向かって行ってほしい」

イルレタは基本的にどちらかのサイドにはFW的な選手であるビクトルかルケを配し、ゴール前で2ndストライカー(シャドー)としての動きをさせる。 これは両サイドが全く異なる動きと役割を負うことで、相手DFの対応が難しくなるという非対称のサッカーの典型でもある。


(『SkyPerfectv:UEFAチャンピオンズリーグ03-04 モナコ vs デポルティーボ』より)
問題は2ndストライカーであるサイドハーフが、どのタイミングで、どのようにゴール前でFWとして働くかということだ。 図はSHのゴール前へのサポートの動きがあらわれた典型的な例である。 1トップのトリスタンとポジションを入れ替わったバレロンがゴールのニアサイドでシュートし、 その弾かれたボールを右サイドから相手のSBの背後を通って一直線にゴール前に詰めてゴールを奪ったシーンである。

このタイプのアタッカーとして最も特徴的なのは、サイドの裏からペナルティーエリアまでの斜め45°の直線的な寄せと、それを行うタイミングが自動的で機械的である点だ。 基本的には逆サイドにボールがある場合、つまり自分がボールを持たない場合、自分がプレーに関与しにくい状況になった場合にこういった相手DFの意表を付く動きが行なわれている。

先の例は1トップがニアサイドに入って、ディフェンスが収縮したところをサイドから狙う動きだったが、SHの典型的な得点パターンの例は他にも幾つかある。 速攻時の味方のアーリークロスに対し、最も後から最も遠いサイドに走りこむことで、流れてきたボールを決める場合。 (むしろこういったクロスの場合、あえてシャドーの方に合わせる場面のほうが多いほどだ) また、DFラインの中にいたFWがボールを受けようと下がり、それにつられて相手のDFラインを上げた場合などには、 ファーサイドのSBの死角からFWとは逆向き動き出すことで、簡単にDFラインの裏に抜け出してゴールするパターンがある。 この場合、中盤の選手はトップのFWにクサビのボールを当てる”フリ”をしながら、SHの裏への動きを目の端で追ってそこにロブのパスを出すことになるが、これもやはりパターンプレーの1つである。

デポルティーボの2ndストライカーの動きは、先ほど紹介したミランのカカが果たすべき役割とは動き方やタイミングが全く違うのがわかるだろう。 こういったSHがアタッカーとなる動きは日本では馴染みがないかも知れないが、 昨シーズンのFC東京のLHの戸田の役割が正にこのタイプのプレーを行なっており、シーズンでも相当数の得点をマークしている。

■京都の”受ける1トップ”
昨年までの京都パープルサンガは3-6-1、厳密には3-4-2-1のシステムを採用しており、 前線の3人の関係を示した通称『1トップ・2シャドー』をうまく機能させていた稀有な例だ。 前線の形だけを見ればACミランと同じ形であるが、その機構は全くと言っていいほど違っている。

その最大の特徴は、黒部のポストプレーにある。
屈強な肉体と滞空時間の長いヘディングでボールターゲットとなり、受けては巧みなボールさばきから全ての攻撃の起点となりうる。 しかし、京都のように中盤のかなり低い位置まで1トップが引いてくる場合、肝心の得点を生み出すのに必要なゴール前の人数を確保することが容易ではない。 1トップ・2シャドーの関係を用いる場合、2人の攻撃的MFのうちのどちらか一方が引いてきたFWを追い越し、その間に1トップが落としたボールをその飛び出しに合わせるというのが通例である。 京都では主に松井が2ndストライカーとして働いており、また中盤においては巧みな足技から攻撃にアクセントを加えていた。

しかし、2シャドーが非常に高い得点能力と連携を有する場合ならともかく、黒部と松井と鈴木慎吾以外飛びぬけた得点力を持たないチームでは、 つぶれ役のポストである黒部がすばやく動きなおし、もう一度ゴール前に戻る必要が出てくる。 黒部には、ポストプレーから前向きのMFにボールを落とし、そのボールをサイドに振ってセンタリングを上げるまでの間に前線まで戻るという動きが求められた。

シェフテェンコが裏にばかり抜けて、中盤の助けとなるポストプレーをほとんど行なわなかったのとは大きな違いである。 またミランの攻撃的MFの2人がピッチの中央の狭いエリアにしか動かないのに比べると、京都のそれはサイドに大きく開いてWBと入れ替わったり、 サイドでボールを持ってドリブルで突破したりと中盤でユーティリティーな動きを行なっており、攻撃のバリエーションは比較的豊富であるともいえる。 だが、こういったMFの早い段階での自由な動き出しも、やはり中盤にかかるボールキープの負担を黒部が軽減していることの証でもあったのだ。

■1トップとDFラインに生じるDFターゲットと楔の関係
これまで見てきたどの事例においても、1トップとなるFWへのサポートというのが重要な要素であることが確認できる。 しかし、ここで疑問になるのは「では、何故そうまでしてFWを1人にする必要があるのか?」ということである。 そこには何らかの意図やメリットが隠されているに違いない。

単純に発想から行けば、FWが少ない分だけ中盤より後方のエリアに人数を多く割けるからということになる。 これは特に守備面において重要な要素であるゾーンの効果的分割と、局面の数的な優位性を保ち易くはなるだろう。 だがそのことがそれほど大きなメリットであるとも思えず、仮にそれを考慮したとしてもトップを1人にすることで出現するリスクを回避できるわけではない。


(『SkyPerfectv:セリエA 03-04 ミラン vs ボローニャ』より)
ヒントはACミランのシェフチェンコの動きに隠されている。
対戦しているボローニャのDFラインは完成度という意味ではそれほど高いものではないものの、ラインを積極的に押し上げて前線との距離をコンパクトに保つように意識されている。 問題なのは、この種の”DFラインを高く保とうとする行為”が、必然的に相手FWへのマークをぼかすことにつながってしまう点だ。 これはDFラインの位置を決める優先順位が相手FWとの位置関係よりも、より中盤との関係に依存しているからに他ならない。 この場面ではシェフチェンコへのマークは完全にはずれ、ピルロからのフィードを受けてフリーでシュートまで持ち込んでいる。

では逆の場合はどうだろう?
つまり、DFラインの位置をFWのポジショニングに依存させるように切り替えた場合、どのようなことがおこるだろうか? 既に述べたように1トップのシェフチェンコのポジショニングは一定しておらず、前後左右に比較的自由にポジションを取っている。 しかも相手の裏への意識を常に持ち続け、ボールサイドと対角線上の逆のサイドにポジションをとる場面が頻繁に見られる。

1トップがシェフチェンコが裏を狙って深いポジションに動けば、FWのポジションに依存するDFラインも当然深めのポジションを取らざるを得ない。 そうなると今度は中盤との距離が開いてきてバイタルエリアに大きなスペースを与えることとなり、 しかもそのスペースというのは4-2-3-1や3-4-2-1などの1トップを用いることによって増加したMFが攻撃のために使う有効なエリアと成り得てしまう。

現実問題として、1人のFWのためにその都度4人で形成しているDFラインの上下動を行い、しかもそれによって相手にスペースを与えるとなると、 DFラインが安定しないばかりか中盤のバランスも崩れてしまい、ほとんどメリットが発生しない。 そうなると、先のボローニャのようにある程度はFWを自由にさせておいて、チーム全体のバランスをとる以外にあまり有効な方法がないということになる。

ここまではDFラインを保ちつつも、相手をぼかすような守備だった場合の話で、 実際にはこういった種類の問題はラインを保つことを意識しないような守備の場合には全く発生しないのだが、 ラインを形成しないこと自体のデメリットがあまりに大きいために、その方法について語ることはナンセンスだ。

では今度はポストプレーヤーの1トップとDFラインの関係について取り上げることにしよう。
京都の黒部のプレーなどはその典型であるが、ラインの前でプレーする1トップにはディフェンスターゲットとしての役割が求められる。 下がりながらボールを受けるポストプレーヤーが一度ボールを懐に納められた場合、DFはFWを追い越して挟み込まない限りボールを取ることが難しく、 相手FWの背中にプレッシャーをかけ続ける以外にディフェンスの対処の方法がなくなる。 つまり自在に動く相手のDFラインをたった1人のFWのポストプレーという楔を打ち込むことで、一時的に機能を停止させることが可能となるのだ。

そもそもDFラインを形成するメリットというのは『奥行きをなくすこと』(相手のプレーエリアを狭める)と 『奥行きをコントロールすること』(オフサイドラインのコントロール)の2点であり、 また同時にDFラインのデメリットというのは裏への飛び出しにうまく対応しにくいなどの『奥行きがないこと』によってカバーリングができないためである。

効果的なポストプレーは相手DFラインから機能の一つである『奥行きをコントロールする』機能を奪い去ることが可能である。 立ち止まったDFラインを破ることはさほど難しいことではなく、裏に走りこんだり、パスを出したりと後ろに控える2シャドーの攻撃力を存分に引き出すことが可能となる。 一方で、DFラインの方もコペルトューラなどの『ラインによるカバーリング』が行なわれており、そういったライン戦術の弱点をカバーする機構も備えつつある。

もちろん、ポストプレーと裏への走り込み自体は特に1トップでなければ機能させられないというほどのものではないが、 特に1トップ2シャドーがそういったプレーを導くのに考え得る最適の形であるため、上記のような高い攻撃性を持つに至っている。

■1トップシステムの弱点
1トップの戦術、特に4-2-3-1の形はリーガ・エスパニョーラでは頻繁に見かけることができる。
イルレタはリーガにこのシステムが席巻する理由として、中盤をコントロールしながらもオフェンス力を低下させたくないという、戦略上の必要性から来るものだと分析する。

「4-2-3-1の根本的な狙いは、中盤を強化し支配することにある。例えばビエラのような身体能力が圧倒的に高い選手がいるようならば、1人のMFでそれは可能だ。 しかし彼のような選手は例外的であるために、ピボーテ(ボランチ)を2人置き彼らに中盤を牛耳させる必要がある。 大抵の場合、CF1人とその後ろに3人のMFを置く方法が効果的といえる。 ピッチ上の広いゾーンを動くこの3人は、敵のディフェンスラインにしてみればコントロールするのが難しく、マークするのが大変だ。 チームに得点能力があり、攻撃センスを持った選手がいるならば、非常に有効なシステムだろう」

上記の様々な例を見ても、1トップが当初想定していたよりも非常に効果的な戦術であることがわかるが、 その一方で、他のシステムに比べると人員配置の関係上、若干バランスが悪い印象があることは確かなことである。

1トップの弱点とは何か?イルレタは自らの戦術を次にように分析する。
「もし3人のMFのうちの誰かが敵ゴールへうまく攻めることができなければ、システムにちぐはぐな部分が出てくる。それが欠点だ」
この言葉はデポルティーボの戦術上の意図を明確に表しているといえるだろう。
イルレタは実感を込めて「ゴールへ攻める」と表現しているが、要は先に挙げたような1トップがもたらすゴール前の人数の低下とサポート体制の強化へのイルレタの回答がルケやビクトルなどの攻撃的な両サイドアタッカーの飛び出しであり、やはり前線の選手がどこまでゴール前に顔を出せるかが鍵であることを十二分に理解しているのだ。

4-2-3-1の弱点をより具体的に挙げるとすれば、まず1トップは高い総合能力が求められる上に、DFのターゲットになりやすい点が上げられる。 2点目としては、サイドの高い位置にボールが収まらない場合には全く攻め手を失ってしまうことが考えられる。 幸いなことにサイドのスペースというのは日々の鍛錬により、連携や組織的なパターンプレーによるボールの引き出し、そこからの展開などを習得できるエリアであり、 おかげでデポルティーボのようにチーム練習を継続的に行なっているチームの場合には、そういった弱点を露呈するシーンはあまり見られない。 一方で、4-2-3-1の形だけを真似しようとした場合には、こういった問題が生じることは避けられない。 このシステムで高い機能性をもたらすのは非常に時間と労力が必要で、そういう意味で高度な戦術であるともいえるだろう。

もっとも、こういった組織としての熟練度が高くなければ機能しないのは4-2-3-1に限った話ではないし、 4-2-3-1といった言い方が選手の人員配置を効率的に説明する際の便宜的な呼称にしか過ぎないことは確かであるのだ。 イルレタ自身もデポルティーボの4-2-3-1は機能的には非対称の4-4-2であるといっているように、見た目と機能とが必ずしも一致しているとも限らない。 機能が4-4-2であるにも関わらず、見た目が4-2-3-1だからこのチームが最強でありそうだ、とは当然ながらいえないのである。

デポルティーボの1トップは中盤と連携しながら、バランスよくお互いが絡みあうが、ミランのシェフチェンコや京都の黒部などは中盤との関係はより極端であると言える。 シェフチェンコについて言えば、あれだけ自由にポジショニングしながらも、中盤への助けとなる動きはほとんど行なわないために、 もし中盤から正確なボールが供給される道を絶たれてしまった場合には、完全に孤立してしまう上に、著しい得点力の低下をチームに招きかねない。

逆に、京都の黒部の場合には中盤へのサポートに力を割きすぎてしまい、黒部の高い能力に依存しすぎたチームのバランスを生み出してしまったのが災いした。 以前、レポートでも指摘したが、昨シーズンの京都を見る限り、怪我による黒部の長期離脱が強力なFWを1人失った以上のチーム力の低下を招き、 それからチームを再度組み立て直すきっかけを逸してしまったことが降格の主な原因と考えられる。

■1トップの可能性
既に見てきたように、1トップは現代サッカーが生み出したDFラインという怪物に対して、かなり有効な戦術と成り得る可能性を秘めていることは間違いない。 例に挙げた4-2-3-1などはその典型で、既にこのシステムは欧州各国リーグを中心に、急速にその広まりを見せ始めている。 しかし、このシステムがその後戦術として定着するのかどうかは予想がつかない部分がある。 かつての4-4-2に対するアンチテーゼとして3-5-2があったように、それを打ち破る戦略が広まることで、新たな弱点が見つかることも十分考えられるためだ。

しかし1トップがこれほど急激な広まりを見せるのには他にも理由があるかもしれない。 例えば、サッカーバブルの崩壊やターンオーバーの普及に伴う選手数と費用の増加がチームの財政を圧迫しており、 移籍金や給料の高いFW選手達をあまり多く抱えないことをよしとする部分もあるだろうし、そういった財政的な問題がチーム戦術に大きく影響を与えないはずがない。

4-2-3-1以外にも、例えば最近まで日本のユース年代では3-4-2-1を用いた1トップ・2シャドーの戦術が用いられていたが、 うまく機能さえしてくれれば、相手をほぼ自動的に崩せるだけの要素を含んでおり、今後も継続的に指導を続けていってもらいたい戦術での1つである。

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