日本代表タクティクスレポート(2)

■『変則4バック』と『ロービングセンターハーフ』〜ツーロン国際大会〜
ツーロン国際大会の戦術の基本ベースは、ほぼ先のWユースと変わらない。私は前回守備の整備が課題と書いたが、小野監督はむしろチームをより攻撃的にシフトさせてきた。これには、チームの中心として期待された阿部勇樹の復帰や京都の中心選手へと成長した松井の加入などで「個」がベースアップした今、もう一度あの魅惑のムービングフットボールを試したいと言う思いもあったのだろう。そして、このチャレンジは結果的に見事に成功することになる。

日本代表はアイルランド、南アフリカ、ドイツ、イタリアといった強豪チームと伍して戦いグループリーグ2位、そして3位決定戦でイングランドをPK戦の末破り、3位という素晴らしい結果を残した。大会関係者に「ブラジルと並んでスペクタクル」と言わせるほど強烈なインパクトを残したツーロン国際大会の日本代表を『変則4バック』と『ロービングセンターハーフ』という2つのキーワードから分析していきたい。
『変則4バック』

今大会日本は見方によっては2バックとも取れる非常に変則的な4バックシステムを採用してきた。これは何も小野監督のアイディアで唐突に生まれたものではなく、Wユースのチェコ戦などでも採用されてきた形ではあるのだが、ビハインド時や予選敗退が決まったチェコ戦などあくまでも比較的“冒険できる”場面で使用してきたものなので、それをチームの基本形にすることはやはり冒険と言えるだろう。

しかし、試合を見ると思いの他守備の不安は少なく、3バックだったWユース時よりもむしろ機能していたとすらいえる。というのは、中盤の人数が増え、より中盤の密度が高くなったことにより、攻守の切り替え時にも速やかに相手にプレッシャーをかけ、速攻を遅らせることがよりスムーズに出来るようになったからだ。これによって、例え最終ラインが2バック状態であってもSBやボランチの戻る時間を十分稼ぐことが出来る。また、逆に高い位置からボールを奪って速攻をしかけるという現代サッカー必勝の形も頻繁に見ることが出来た。

しかし、やはり2バックになることも多いシステムなので、中盤のプレスの強化に全て依存してしまうことは危険だろう。試合中のイレギュラーな事態の対応や選手の足が止まった後半ではこの方法も有効に機能しないことが予想されるからだ。

そのような理由からこの『変則4バック』を機能させるために戦術的に1工夫加えられているのであるが、それが非常に興味深い。上記のような選手の戻る時間を稼ぐことも含めてDFラインとMFとの連携の問題はどのチームも頭を悩ませるところだが、小野監督はその解決のために非常に変わった方向からアプローチしてきた。
『ロービングセンターハーフ』

『ロービングセンターハーフ』とはフットボール草創期の俗に言う「クラシック・システム」(ピラミット・システム)の花形ポジションで中盤を自由に広く動き回り攻撃の組み立てを行うことを仕事とした。2−3−5の中盤のセンターにあたるこのポジションは今回の日本代表で阿部が与えられたポジションと酷似している。

基本フォーメーション ポジションチェンジ後

ツーロンでの日本代表の基本フォーメーションは上記のようになる。これを敢えて表すと4−2−1−2−1という並びが最も近いかもしれない。このシステムでの阿部勇樹は一応ボランチとしての働きが期待されているが、同時にSBが上がった後、3バックのセンターとしてバックラインまで下がり、守備のバランスを取ることも要求されている。これはチーム戦術としても有効に機能し、阿部の下がった後の中盤のスペースは森崎が下がり、その森崎のスペースは山瀬と松井が交互に下がることによってそれぞれ上手くカバー出来ていた。もともと流動的なサッカーを指向していたチームなので、上記のポジションチェンジ(の形を持つこと)は守備だけではなく均衡したゲームの流れを崩す”初動の動き”としてもチーム全体に良いリズムを生み出した。

ただ、このような戦術は珍しいことは珍しいが、SBに攻撃的な選手を配置する傾向が強いブラジルなどでは比較的良く見ることが出来る。アメリカW杯でのジョルジーニョ、レオナルドのカバーにボランチのマウロ・シルバが入ると言う形はその代表的な例と言えるだろう。しかし、ボックス型の中盤を採用するセレソンで最終ラインのカバーを行うボランチはどうしても守備のバランスを取ることで精一杯になりそれ以上のことは望めないのが現状だ。

対して、DFライン(ときにはその後ろまで)引いてボールを引き出し、そこから持ち前の正確なキックでゲームをコントロールする阿部はまさしくチームの中心でほとんど全てのボールが阿部を経由していたと行っても過言ではなかった。こう書くと一見かつてのリベロを思い浮かべる人もいるかもしれないが、最終ラインを根城にしていたリベロとは違い、阿部はあくまでも中盤であり、プレーのプライオリティーも中盤に置かれている。

このブラジル式ボランチともかつてのリベロとも違う阿部のロービングセンターハーフだが、今回は機能したと行っても相手はユースレヴェルであり、贔屓目に見てもA代表クラス相手に厳しいように思う。2バックから3バックに移行する“タメ”はどちらにしても作らなければなければならないので、その意味では2バックの時と同様にイレギュラーな事態や体力がなくなる後半に弱点があることもまた確かである。いずれにしてもこの戦術が今後どのような推移を見せていくのか非常に楽しみである。
(GAITI)
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