■「日本代表英国遠征分析」(2004/06/08)

WCUPアジア一次予選を控える中、Jリーグを中断し行われた日本代表の英国遠征から
今回はアイスランド戦を中心にいくつかのポイントとなる部分をピックアップする。
日本代表が採用する4-4-2と3-5-2の2つのシステム。明暗を含め、その違いが明確に出た二連戦だった。

■4-4-2のライン間の処理
  <日本のスタメン>  |  <アイスランドのスタメン>   | <イングランドのスタメン>
    久保 玉田    |   グジョンセン  ヘルグソン      |   オーウェン    ルーニー
           中村           | シグルドソン      T・グジョンセン  |      スコールズ
三都主       加持 |    グレタルソン  J・グジョンセン   |  ジェラード     ベッカム
    小野 稲本    | フレイダルション     グンナルソン    |     ランパード
  中澤  宮本 坪井   |    マルティンソン  インギマルション    | Aコール キャンベル テリー  Gネビル
      楢崎      |       アラソン         |      ジェームズ
日本はここ数試合継続的に用いている3-5-2の布陣、対してアイスランドは4-4-2フラット、イングランドは4-4-2のダイヤモンド型の布陣を敷く。

以前、戦術のディテールで3-5-2と4-4-2フラットを考えた場合、 各局面で数的不利を生じるということを述べた。
特に中盤では前後の構成力が成り立たない4-4-2では、図のようにマーキングに問題を抱える可能性が高いということを。

典型的な3-5-2を採用する日本と、同様に典型的な4-4-2フラットを採用する英国圏のアイスランドではその違いが明らかになる。


(『NTV:国際親善試合 日本代表 vs アイスランド代表』より)

図はアイスランドの中盤でのマーキングの関係を表したものだ。
アイスランドの中盤はライン状に保たれているが、ちょうど日本のボランチの位置でフリーの選手を作り出してしまっている。

上の図からもわかるように、両者の布陣が局面での数的不利という問題を内在してしまっているため、 前線からのプレッシャーなしに、つまり選手間の距離をコンパクトに保てない場合、やはりこのような問題をかなり高い確率で引き起こす。


(『NTV:国際親善試合 日本代表 vs イングランド代表』より)

今度の図は、ライン間のルーズな間合いを示したものだ。
イングランドの場合、本来中盤はダイヤモンド型のためアンカーがこのポジションを埋めているはずなのだが、 起用されている選手にその種の役割をこなせる選手が存在しなかったためにこのような現象が見られた。


(『NTV:国際親善試合 日本代表 vs イングランド代表』より)

実際、イングランド戦での小野のゴールもこのようなライン間の曖昧なマーキングから生まれている。
DFラインにつられるように中盤のラインを押し下げたが、深い位置にスルーパスを送ったことでDFラインだけが大きく下がり、 バイタルエリアをガラ空きにしてしまったのだ。


(『NTV:国際親善試合 日本代表 vs アイスランド代表』より)

ラインの溝は、何も中盤とDFラインの間にばかり存在するものではない。
以前指摘したことがあったが、 英国権の4-4-2フラットにおけるDFラインというのは中盤との距離を離さないために、無理やり距離をつめて押し上げることが良くある。 図もそういったシーンを示したもので、こういったバックパスからGKがFWにボールをさらわれて失点する場面がプレミアリーグでは頻発する。 そもそも数年前までGKコーチすら存在しなかったイングランドには、イタリアのように「GKからチームを作る」という概念がないのだ。

■4-4-2と3-5-2の相性
4-4-2と3-5-2の相性を考えたとき、鍵となるポジションはトップ下のポジションになる。
これも以前指摘したことがあるが、中村はプレースタイルとしてはクラシカルなタイプのトップ下と言うことができる。 中盤の中でバランスを考えながらも、攻撃のために自由にポジションを取るため、守備をかなり重視するチーム戦術とは相容れない存在だ。

ところが、このトップ下は4-4-2フラットが相手では、守備的な役割からかなりの部分開放される。
相手にボランチが存在しないため、本来行わなければならない相手の中盤の底へのケアを行う必要がないからだ。 増してや、日本のポゼッションが高まれば高まるほどこの傾向は顕著となり、中村は攻撃のための自由なポジショニングを行える。


(『NTV:国際親善試合 日本代表 vs アイスランド代表』より)

図は中村のポジショニングの例だ。
この場面では坪井と加持がサイドに張り、数的拮抗状態になったところに、早い段階でサポートに回ることで加持をワンツーで抜け出させることに成功している。


(『NTV:国際親善試合 日本代表 vs アイスランド代表』より)

図も中村の鋭いサポートの動きを表したものだ。
ここでは日本のダブルボランチに対して相手のCMFがプレッシャーをかけてきており、 相手の体でブラインドにならない位置までかなり下がってボールを引き出し、ピンチを防いでいる。
トップ下の動きとしては満点に近いものだ。


(『NTV:国際親善試合 日本代表 vs イングランド代表』より)

次の図はイングランドのマーキングの問題を表したものだ。
イングランドの場合、守備時の中盤は更に薄い状態で、ここでは中盤の両サイドが完全にWBに引っ張られ、 そのため中央のランパードと中村が1対1の状態になっている。 ここにボランチのどちらかが上がってくれば、中盤においては確実に数的優位を作れる。 イングランドは全体での守備の人数は足りているのに、肝心のボール際での局面優位性を保てていない。

このように3-5-2は一般的に4-4-2に対して各局面で数的な優位性を保ちやすい。

■3-5-2のサイドは弱いのか?
こうして一つ一つのプレーを見ていくと、かつて3-5-2が4-4-2を打ち破るために編み出されたというのも頷ける。
ただし、4-4-2フラットの真骨頂はやはりサイド攻撃。しかしその際に3-5-2では”サイドの人数”が足りないために破られる云々、などという輩はハッキリ言って信頼が置けない。なぜならそれが嘘だからだ。



図はアイスランドの典型的なサイドの多段攻撃を示したものだ。
SMFがFWを追い越し、更にFWの落としたボールをSBが前方に送る。
ここでのアイスランドのボール回しはほぼ完璧なものだったが、ついたはずの裏のスペースには宮本がカバーリングに入っている。 もし本当に3-5-2はサイドを守る人数が足りなくなるならば、ここは完璧に破られていなくてはならない。 ところがそうではなかった。 そもそも3-5-2の場合サイドのカバーリングに入れるポジションはWBだけではなくCBやボランチ、更にこのようにリベロがカバーリングすることもある。 これが4-4-2だとSBとSMFの二人だけなのだから、本当はどちらがサイドが弱いのかわかったものではない。


(『NTV:国際親善試合 日本代表 vs アイスランド代表』より)

これもサイドでの局面を示したものだが、加持の他にここでは中村がサイドに張って守備をすることで数的な有利を作っている。 トップ下というのは中盤の高い位置で立っているだけが役割ではなく、ボールサイドにプレッシャーを与えることも重要な要素だ。 SBに上がる機会を与えなければ、3-5-2がサイドで数的不利になることはないということになる。


(『NTV:国際親善試合 日本代表 vs アイスランド代表』より)

この考えは攻撃時にも当てはまる。
図は中澤の攻撃参加を示したものだ。
この場面では三都主と中澤が巧みなパス交換から相手のサイドを多段攻撃により破っている。 3-5-2のサイドは一人しかいないはずなのにアイスランドのような多段攻撃ができるはずがない。 だが、現実には出来ている。 これはつまり、サイドの人数でサッカーを判断してはいけないということを表している。 サッカーの質はサイドの人数で決まるのではないからだ。

これまでのジーコの3バックで、これほど積極的に攻撃の起点となる動きを見せるCBはいなかった。 中澤が現在所属する横浜の岡田監督は、札幌時代に興味深い発言をしている。
「3バックのうち、サイド側の選手は攻撃に参加できなければならない」
事実、札幌時代の3バック、大森、名塚、森のうち大森と森はチャンスがあればサイドを駆け上がって攻撃の基点となる場面が何度も見られた。 もともとSBもこなせる大森はまだしも、森は典型的なストッパーでヘディング以外これといって有効な攻撃手段を持ち合わせていない選手だ。 にもかかわらず、そういった森にも岡田監督はある程度攻撃的に振舞うことを期待していた。 岡田監督は知っていたのだ。SBの存在しない3バックでは、サイド側のCBが攻撃の起点とならねば一気に攻撃が停滞してしまうことを。

当然、今の横浜で監督のその考えは一貫している。
本来ストッパーだった中澤や那須が、3バックに入ると攻撃の基点となる場面がよく見られる。


(『NTV:国際親善試合 日本代表 vs アイスランド代表』より)

図も中澤が攻撃の基点となった場面だ。
この場面では5人いる中盤を通り越して一気にFWに楔のボールが入っている。 これは以前指摘した”一つ飛び越すパス”の少なさが、攻撃的に振舞うバックスが入ったことで一時的かもしれないが解消されたと言い換えることが出来る。

■英国圏のDFラインのコントロールの問題
再三再度指摘しているように、イングランドを中心とした英国圏のサッカーにおける守備戦術のいい加減差は目を見張るものがある。 ちょうどいい機会なので、その例をいくつか紹介していこう。


(『NTV:国際親善試合 日本代表 vs アイスランド代表』より)

一つ目に、ペナルティーエリアの中で相手のマークよりDFラインの形成とコントロールを過度に重視するのが問題だ。 図はそういったシーンの一つで、ここではセンタリングが上がった直後に久保のマークを外しラインを形成、 シュートを打った久保はその場から一歩も動かずにノーマークになるというなんとも奇妙な場面だ。


(『NTV:国際親善試合 日本代表 vs アイスランド代表』より)

二つ目に、DFラインを直ぐに崩してしまうのも問題だ。
これもプレミアリーグなどで非常に頻発するシーンだが、FWが走りこんだ瞬間にDFが早々にラインの形成を解いてFWにマンマークでついていく。 相手がオーウェンだろうと全く関係なくついていく場面には閉口するが、この場面でもやはり動き出した久保につられて簡単にラインを崩してしまったがために、 かえってFWの縦の動きのスペースを与えてしまいオフサイドにかける機会を逃している。 これはDFに判断ミスではなく、この場面ではこうするのが正しいとされているのだ。 イングランドではしばしば「このCBは足が遅い」と批判され場面を見かけるが、 FWとまともに走りあってそれに勝たなければならないほどの走力をDFに求めているという点に戦術的破綻が見て取れる。

■不慣れな4-4-2
対アイスランド戦において、日本が後半から4-4-2に変更したのは既に周知のことだが、 この戦いぶりを見る限り、日本人はおそらく4-4-2を知らないのではないかと思えてきた。 出来ないのではなく、知らないのだ。つまりやったことがないと。


(『NTV:国際親善試合 日本代表 vs アイスランド代表』より)

これは後半に日本のサイドが破られるシーンだが、ここでは前半は二重にも三重にも敷かれていたサイドのカバーリングが全く機能しておらず、 簡単に相手のSMFに対して道を明け渡しているのがわかる。ボランチやCBがカバーリングに入るタイミングが見当たらないのだ。


(『NTV:国際親善試合 日本代表 vs アイスランド代表』より)

次は相手のプレッシャーに対する日本のボール回しのまずさが出たシーンだ。
さすがに相手も4-4-2のシステムと戦いなれているだけあって、サイドの縦を切ったこういう状況で どういった形でボールがDFラインを回るかをまるで予め知っているかのようにプレッシャーをかけてくる。

どちらのシーンも日本が4-4-2であまりにも戦いなれていないという部分が見事に出てしまっている。 もしこれがプレミアのクラブであれば、パスを回して相手を崩すのではなく、相手が構える前にどんどんボールを前に送っていこうとする。 4-4-2があっている、あっている以前にこの形で圧倒的に戦いなれていないのだ。 逆に言えば3-5-2の布陣であれば日本人は非常に戦いなれているといえるだろう。 もちろん4-4-2に対する約束事が構築されていれば、こういったことはなかったかもしれないが、 個人の持っているコモンセンス、共通理解、あるいは貯金といってもいいかもしれない戦術的な積み上げが3-5-2にしかなかったということだろう。

一つだけハッキリしたのは、トルシエのような戦術家タイプの監督でならまだしも、ジーコ政権下では4-4-2は二度としないほうがいいということ。 共通理解の持ち合わせでチームを構築するのがジーコのサッカーならば、それは必然であるはずだ。

■課題
今回の分析に関して、この戦いが親善試合だということもあり実はどうということもないのだが、 あえて気になった点をあげるならば、それは中盤での守備意識の低さになるだろう。


(『NTV:国際親善試合 日本代表 vs イングランド代表』より)

これはダイヤモンド型の頂点に入っていたスコールズに対する日本のルーズなマークを示したものだが、 結局90分間、この中盤とDFラインの間のスペースが埋まることはなかった。 元を正せば小野も稲本も攻撃が好きなタイプで、二人とも上がっていってしまうシーンもよくあった。 今後日本が高いレベルの相手をする場合には、戸田や中田浩司などの守備的な意識のボランチが必要になってくることだろう。

これらの戦いがかなりスペースを与えてくれる相手とのものであったというのを含めると、 インド戦に向けて多少いい形で点を取ったからといって本当にいい準備になっているのかどうかは疑わしい部分もある。 いずれにしても、それは6/9の夜には明らかになっていることだろう。

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